聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 夜になって、一緒にベッドにもぐりこむと彼は思い出したようにつぶやいた。

「婚姻届はいつ出そうか? さすがに出産を迎える前に提出しないと」
「そうか、そうだね」

 婚姻届と具体的な話が出てきたことで、本当に彼と夫婦になるのだと玲奈は実感する。だが、もう不安はなかった。

(十弥とならきっと大丈夫。きっとこの子を幸せにしてあげられる)

 玲奈は自身のお腹を撫でながら柔らかな笑みを浮かべた。

「その前に君を俺の両親に紹介するよ」

 信じられないことに、彼の両親はこの結婚を歓迎してくれているらしい。

「元々うちの両親は放任主義だし、それに君のことは親父も高く評価しているからな」

 十弥の父親は和泉商事の現会長。和泉の血縁ではない叩きあげの社長に実務は譲ったものの、今も会社の最高責任者は彼だ。玲奈は会長の秘書をつとめたことはないが、秘書室が長いのでもちろん彼のことはよく知っている。

「うちの上層部に君を悪く言う人間はいないし、誰からも祝福される結婚だよ」

 十弥はそう言って玲奈を安心させた。それから、気遣うように少し声をひそめて続けた。

「君のほうはどうしたい?」
「まずは、私ひとりで話してくる」

 玲奈の親族は母親だけだ。祖父を亡くしたのちは、親戚とも没交渉になっていた。その母親とも疎遠気味ではあった。十八歳で実家を出てからは正月の挨拶に行くくらいで普段はほとんど連絡を取っていない。
 母親の冷たい目を見るのは苦痛でしかないが、さすがに結婚を黙っているわけにもいかないだろう。玲奈は母親に連絡し、実家に出向く日程を決めた。
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