聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 それから二週間後。玲奈は実家のリビングで母親と対峙した。

「そういうわけだから、来月あたりに婚姻届けを提出するつもり。別にお母さんになにかしてほしいって話じゃない。ただの報告」

 硬く、冷たい声で玲奈は言う。母親である佐和の顔を直視するのが怖くて、淡いグリーンのカーテンを凝視していた。あいかわらず佐和は部屋を綺麗にしている。インテリアの趣味もよく、誰が見ても素敵な家庭と思える空間が広がっている。だが、この家での楽しい思い出なんて玲奈にはひとつもない。つらい、忘れたい記憶ばかりだ。そして、今日もまたひとつ嫌な記憶が増えることになりそうだ。

「悪いこと言わないから、やめときなさいよ」

 佐和は低く笑った。嘲るような、とても自分の娘に向けるとは思えないような笑みだった。
 玲奈はかっとなって、彼女を睨む。

「勘違いしないで。相談しにきたわけじゃないから」

 強気な態度で言ったが、佐和の冷たい眼差しに、身体が強張る。

(別に、この人がなんて言おうと関係ない……)

 自分にそう言い聞かせても、心にぽつりと黒いシミが落ちてジワジワと広がっていく。
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