聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「玲奈ちゃん、箸の使い方とか映画館でのマナーとか、すごくしっかりしてたから
……愛情深い親御さんに大切に育てられたお嬢さんなんだろうなって想像してた」

 玲奈は小首をかしげた。

「愛情深いかはわからないけど、たしかにしつけは厳しかったですね」

 ふと昔の記憶が蘇ってくる。

 子どもの頃、玲奈は魚が苦手だった。味も好きではなかったが、あの骨がなにより嫌いだったのだ。でも佐和は毎週火曜日に決まって焼き魚を食卓に並べた。

『日本人に生まれたんだから、魚は綺麗に食べられるようになりなさい。大人になって困るのは自分よ』

 そう言って、骨の上手な取り除き方を教えてくれた。玲奈が嫌々ながらも完食すると、『よくできました』と笑ってくれた。

 礼儀作法がしっかり身についているのは秘書という仕事をするうえで有益だ。それは間違いなく佐和のおかげだった。

「玲奈ちゃん? 大丈夫?」

 ふいに涙があふれてきた。自分でも理由がわからず、止めることができなかった。

(なに泣いてるんだろう……妊娠すると情緒不安定になるのかな)

 涙を流す玲奈を前に、航平はオロオロするばかりだった。そんなふたりに鋭い声が飛ぶ。声のしたほうを見ると、十弥がそこにいた。
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