聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 十弥は穏やかな口調で、ゆっくりと玲奈に言う。

「人はつい物事に白黒をつけたがってしまうが……なんでも、そんなに綺麗には分けられないと俺は思ってる。君のお母さんは、君を傷つけるひどい人間だ。だけど同時に、君という素敵な女性を育てた素晴らしい人間でもある」
「ひどいが九割だった……」

 玲奈が顔をしかめてそう本音をもらすと、十弥はくすりと笑う。

「そうか。でも、一割もまた真実だ」 

 玲奈が上目遣いに十弥を見ると、彼は玲奈を抱きしめる腕に力をこめた。
 佐和に対する、どうすることもできないぐちゃぐちゃな感情をありのまま受け止めてもらえて、玲奈の心はすっと軽くなった。

 十弥はまるで陽だまりのようだと玲奈は思う。優しくて、あたたかくて、どこよりも安心できる場所。初めて会ったときは、彼にこんな感情を抱くことになるなんてとても想像できなかった。

「十弥は、どうして私をこんなに大切にしてくれるの?」

 自分を卑下する気はないが、やはり彼に釣り合うような存在だとはどうしても思えない。十弥は御曹司で、おまけに内面も玲奈が想像していたよりずっとずっと素敵だった。自分なんかよりふさわしい女性がいるのではという思いはなかなか消せない。

 玲奈は言葉を重ねる。

「もし子どもができた責任感からなら、申し訳なくて……」

 あの夜、彼を誘ったのは玲奈なのだ。自身のうかつな行動のせいで彼の人生を狂わせたと思うと、苦しかった。

 十弥は両手でそっと玲奈の頬を包みこむ。ゆっくりと顔が近づき、こつんと額がぶつかる。
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