聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 マンションのエントランスに入ると、すぐに彼女の姿が目に入った。マンション専属のコンシェルジュとなにやら楽しそうに談笑している。彼女は十弥の存在に気が付くと、片手をあげて大きな声で彼を呼んだ。

「十弥! お久しぶり」

 ビビッドピンクのツイードジャケットはかなり派手だが、彼女にはとてもよく似合っている。大女優かと思うようなオーラに玲奈は圧倒されて言葉が出なかった。

 コンシェルジュが十弥に言う。

「和泉さま! よかったです。今、ゲストルームにお通ししようと思っていたところなんです」

 このマンションにはゲストルームと呼ばれるホテルのような部屋がいくつか用意されている。本来は事前予約が必要なのだが、おそらく彼女は特別なのだろう。

「すみませんでした、母がご迷惑をおかけして」

 十弥は心底申し訳ないという顔で彼女に頭をさげた。やはり玲奈の想像した通り、彼女は十弥の母、和泉祥子その人だった。

「楽しくお話してただけで、非常識なワガママは言ってないわよ~」

 口をへの字にする祥子に十弥はぴしゃりと言い返す。

「連絡もなしにいきなりたずねてくるのは、十分非常識です」

 息子に怒られても祥子はちっともめげない。今度は玲奈に向き直って、明るい声をあげた。

「あっ、あなたが玲奈さんね~。初めまして、十弥の母です」

「は、はい。芦原玲奈と申します。ご挨拶が遅くなり大変申し訳……」
「そんな堅苦しい挨拶はいいから、いいから。早く部屋に帰りましょ。十弥、さっさとオートロックを開けてよ」

 十弥は苦虫をかみつぶしたような顔で彼女の言う通りにカードキーをかざす。
 あの十弥が顎で使われているなんて、なんだか新鮮で玲奈は思わずふっとふき出してしまった。
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