聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
十弥が玲奈の耳元でささやく。

「こういう人なんだ。本当に申し訳ない」
「えっと……想像していたイメージとは違うけど、すごく素敵なお母様」

 それは玲奈の本心だった。祥子は底抜けに明るくて、まるで太陽みたいだ。こんな女性が家庭の中心にいてくれたら、きっと家族は幸せだろうなと想像した。

 部屋に入ると、祥子は矢継ぎ早にあれこれと質問してきたが、ちっとも不快には思わなかった。それは彼女の人懐っこさと裏表のない気性のなせるワザだろう。

「十弥なんて偉そうで気もきかないし、本当にいいの? 子どもができたから渋々結婚するんじゃない?」
「そんなことないです。優しくて、十弥さんは私なんかにはもったいない人です」

 そこで、キッチンからあたたかいお茶を持ってきた十弥が口を挟む。

「お母さん。頼むから少し黙っていてくれませんか。夜に急にたずねてきて、ギャーギャーワーワーと。玲奈は大事な時期なんだから」

 祥子は子どもみたく露骨にむくれた顔をする。

「だって、見合いをすすめられてもかたくなに断り続けてた息子が急に結婚。おまけに子どももできたなんて連絡してくるんですもの。どんな相手なのか、気になるじゃない~。会いたいと思ったらいてもたってもいられなくて」
「それにしたって、急すぎるでしょう」

(でも、せっかちなところは十弥によく似てる)

 玲奈はそんなふうに思ったが、口に出したら彼が怒りそうなので口をつぐんでおくことにした。

「だって、パパは玲奈さんのこと知ってるって言うんだもの。私だけ仲間外れなんて寂しいじゃないのよ」

 和泉商事会長、経済界のドンとも言われている和泉修造はどうやらパパと呼ばれているらしい。
 玲奈はふたりを取りなすように言葉をかけた。

「十弥。私の体調は大丈夫だから、心配しないで。会いに来てもらえてうれしいです」

 最後の台詞は祥子に向けたものだ。祥子は優しい笑みで玲奈を見つめた。
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