契約結婚は月に愛を囁く
 それから文のやり取りが始まった。
 カークス様は、ほぼ毎日のように文を書いて下さる。 ところが配達が毎日来るわけではないから、数日分がまとめて私の元に届く事になる。
 それは日記のような形であったり、報告内容だったり、私への想いであったり。

 だからジョルジュ卿とアイリス様の婚姻の儀が行われたと知って、動揺したのだ。
 アイリス様にとっての幸せは、すぐそこにあったのだから。

 夢は夢であって、現実は幻ではない。
 ダビデの幸せを喜んだのも、アイリス様に同情したのも、カークス様の幸せを願ったのも。

 そうだ、私は同情した。
 カークス様への報われない想いと、悲しそうな夢の中のあの声に。
 きっと私は待っていたのだ、カークス様の瞳に私が映る事を。
< 115 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop