契約結婚は月に愛を囁く
 ダビデを下僕扱いしていた上級生の侯爵子息が下級生女子を襲おうとしたのだ。
 幸いにして未遂で済んだものの、彼女は平民。

 なんと、その上級生は彼女が書斎にやって来て誘いを掛けてきたから乗ってやったのだと平然と言ったのだ。
 貴族しか使えない書斎にまで足を運んで子を孕もうとする女だ、平民に欲を出すほど落ちぶれてはいないが誘いに乗らないのは男じゃない、と。

 彼女の事は私やダビデの方がよく知っている。
 そもそも、彼女がどこにもいない事に不安を覚えた私達が学校内を探している時に悲鳴が聞こえたのだ。
 彼女は誰彼構わずに誘うような物知らずでも恥知らずでもない。 礼儀もマナーもわきまえられる、平民でありながら淑女ともいえる。 無神経に書斎を訪れるような真似はしない。

 だから許せなかった。
 その思いはダビデも同じだったのだろう。
 怒りから侯爵子息に殴り掛かろうとした。

 その時に私の恋は終わった。
 ダビデは彼女に恋をしていたのだ。
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