契約結婚は月に愛を囁く
「メリル様、それは……?」

「でも、恋仲になりたいだなんて思ってなかったのよ?」

 ティーカップを手にしながら、思い出を語る。

「平民だからと言って好き勝手に結婚出来るわけではないわ。 貴族だってそうよ、恵まれた立場でもね。 それに、まだまだ好きな相手と結婚出来る時代ではないもの。 そんな中、ダビデは眩しい存在で信念と強さを感じたのよ」

 ジョージは頷きながらも黙って聞いてくれている。
 口を挟まずに私の話を受け止めようとしてくれているのが嬉しかった。

「私もダビデのような強い人間になりたいと思ったわ。 譲る未来と譲れない意志が彼にはあったから。 それが欲しくなった」

 それが何なのか、今はもうわかっているつもりだ。

「それがダビデへの恋だと思ったのよ。 でもね、ダビデの彼女への想いはそんなんじゃなかった。 心から彼女を愛してるのよ、何かを犠牲にしても構わないと思えるほどにね」

 そしてダビデに愛される彼女を妬ましい、羨ましいとは思わなかった。

「ダビデには幸せになってもらいたいの。 私が得る事のない幸せを掴んで離さないで欲しいの」

「メリル様……」
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