契約結婚は月に愛を囁く
 その後、領地の視察を終えた伯爵様とカークス様は邸に戻った。

 それからのカークス様は私や伯爵様を質問攻めにする事が多くなっていった。
 それは村の人々の生活や今後の領地の行く末、貴族の役割等について。
 中でも気にされていたのが、村の幼い子供達の環境だ。
 働く場所も方法もわからない大人は子供達に食事を与える事すらろくに出来ない。
 領地の外からやって来る不埒な輩に騙されて、慰み者にされる女もいるという。

 カークス様は伯爵様に言った。

『村の全ての人々を助ける事は出来なくても、せめてあの者を助けてやれませんか?』

 ところが、伯爵様は良い顔はしなかった。

『カークス、同情で一人の女を助けたら村の者はどう思うかわかるか? あの者は女を武器にして伯爵家を誑かす悪女だ、と。 そう言われたら家族は居場所も仕事をも失うだろう』

 そうだ、馬車の前にわざと洗濯物をぶちまけて同情心を煽ったのだ、と捉えられるだろう。

 だから伯爵様は一切の手出しをしなかったのだ。

『ですが、見て見ぬ振りは出来ません』

『ならば、考えなさい。 どうすべきか』

 伯爵様は五歳のカークス様相手でも容赦しない。
 この家の子供は男子一人。 つまり、カークス様が次期伯爵なのだ。
 ご本人もそれを自覚している。

『この領地だけではない。 お前はこの国全体を見る目を養い、将来は国王を助けて行かねばならないのだぞ』

『はい、わかりました』
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