契約結婚は月に愛を囁く
 カークス様はそれから数日間、自室に籠った。
 何をどう成すべきか。 一人で考え、そして行動したのだ。

 出した答えは五歳ならではとでも言おうか。

 カークス様は伯爵様の許可を得て、人々に御触れを出した。

【近々、伯爵邸の庭にて茶会を行います。
その際はカークス・ウォーカーと共に遊び学ぶ子供達を大勢呼びたい。
ご家族にはケーキとお茶を振る舞います。
どなたでも気軽に伯爵邸の庭までお越し下さい。
又、下働きが出来そうな女は手伝いを申し出る事】

 そして招待については身分や地位は一切問わない旨の注意書きも忘れなかった。

 私は幼いカークス様の提案に出来る限りの協力を行い、それはとても有意義で楽しい時間と言えただろう。

 そして茶会は成功。

 その後、下働きをしてくれた者達がそのまま伯爵邸で働く事になったのにはカークス様も喜んでいた。

 それだけではない。

 村の者が作った新鮮な野菜や創作小物を伯爵邸で買い取ったり、月に一度の茶会をその後も開いたり。

 茶会で行った子供達との時間はその後、学ぶ会として続けられた。その子供達の中にはあの女の弟妹もいた。
その際の先生はなんと私だ。

 だが一番の収穫はあの女をメイドで雇うようになった事だろう。

 ただ、簡単に村の生活が良くなるわけでもなく、貧乏は変わらずだ。
 それでもカークス様は諦める事なく、さらに広い視野と学びを求めて寄宿学校に進んだのが十三歳の時。

 既にメリル様が婚約者として伯爵邸で暮らしていたので、置いて行くのを申し訳なく感じていたようだ。

 そんな時のメリル様は言うのだ。

『カークス様、私も共に学びたいです。 いつか妻として理解出来るようになりたいから』

『メリル、待っているよ。 僕の妻になるのは君なのだからね』
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