契約結婚は月に愛を囁く
 私はずっと嫌な予感が拭えずにいた。
 まさか、という不安と想像が付きまとう。

 五日が六日、七日と過ぎ、十日が経った。
 それでも文は届かない。
 カークス様も帰って来る気配がない。

 ついには二週間が経過。

 やはり、嫌な予感がする。

 それが確かな形で現実のものとなったのは、二週間が過ぎた頃だった。

 お客様がいらっしゃったのだ。

 邸の玄関前に着いた馬車の紋章は子爵家のもの。 それもベネット家の。
 私達使用人もメリル様も、予告無しのベネット子爵の登場に大慌てだ。

『ベネット子爵……!』

『ジョージ、突然の訪問すまない』

 名門のベネット家の子爵は普段なら穏やかな見た目の雰囲気を崩さない方なのに、今は険悪な怒りにも似た顔付きだ。

 そこへ、屋敷内から飛んで駆け出して来たメリル様。

『お父様?』

『メリル、大事な話がある』
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