契約結婚は月に愛を囁く
『あぁ、馬に乗りたいなぁ』

『駄目ですよ、父上』

『わかってるさ。 でも、こう臥せていると普段出来ない事をしたくなるものなのさ』

『それくらい言えるようなら大丈夫そうですね、伯爵』

『心配掛けてすまなかったね、カークス。 でも、しばらくは無理するなと妻にもジョルジュにも医師にも言われてね』

『ご安心下さい。 ジョルジュは仕事の出来る男です』

『父上、カークスには仕事の相談に乗ってもらうつもりです』

『頼んだよ。 ジョルジュ、カークス』

 ヘンダーソン伯爵邸の寝室のベッドに横たわる伯爵は、以前より幾らか痩せたような気がする。 まだまだ臥せるような年ではないが、病気のせいもあるだろう。
 ベッド横で心配そうに見守る夫人には何かと気苦労が多いはず。

 ジョルジュの年の離れた弟や妹は、まだこの伯爵家を背負うには早すぎる。
 これから寄宿学校に行って、勉学に励んだり或いは花嫁学校で修業するだろう。 そして二人とも婚約者を決める予定も必要になるかもしれない。

 ヘンダーソン伯爵の仕事の引継ぎはこの屋敷の書斎で行うつもりだ。
 おそらく数日は掛かるだろうから、夜はジョルジュの屋敷で休んで、行ったり来たりとなるだろう。
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