契約結婚は月に愛を囁く
 その男はある爵位を賜ったばかりの所謂、成り上がりという俗物だ。

 どんな手を使ったのかわからないが、たいした功績も上げていないのに貴族の仲間入りしたのだと父上達が蔑むように話していたのを聞いた事がある。

 俺は成り上がりという生き物に会った事がなかったので、どんな生態をしているのだろうと興味津々だった。

 ところが、その男は地位を持つ事に何の迷いも揺るがないらしく、年頃は父上よりも少し上か同じくらい。
 成り上がりの元平民なら精一杯の着飾り具合なはずなのに、その男はまさに生まれつきの貴族といった雰囲気。

 本当に爵位を賜ったばかりの成り上がりなのだろうかと疑問に感じるくらいだ。

 そのせいか、周りに集まった者達は少しも爵位を賜ったばかりの成り上がりだとは気付かない。
 むしろ気品さえ漂うのだ。
 まるで、昔どこかの王だった、なんて言われても納得してしまいそうな。 納得させられそうな、そんな貫禄と圧倒的威圧さえ。

 俺はそれ以上そこにいたら自分が霞んで卑屈になりそうな気がして、立ち去る事にした。
 そしてもっと他の人間も見てみたくなった。

 まだ子供の俺は背が低く、身体も小さかったので、ぶつからないように気を付けないと足を踏まれたり邪魔だと言われて突き飛ばされたりする事も少なくない。

 そこで、とにかく周りに気を付けながら大広間を歩いてみた。
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