契約結婚は月に愛を囁く
 すると、そこにいたのは天使。
 いや、天使と間違えるくらいの清純さと儚さを持つ聖女かもしれない。
 綺麗な長い髪と控えめに立つ姿勢。 ドレスは決して豪華ではないが、似合うデザインが何かをよく知っているようだ。
 そして、麗しい瞳の中に宿る炎と熱情。

 俺は一瞬で恋に堕ちた。

『綺麗だ』

 目を奪われるとはこんな感情なのか。
 身体の奥から沸き上がる熱い感情に満たされるのを感じた。

 俺は彼女に声を掛ける事にした。

 彼女の名はアイリス・キャンベル。
 この王宮で開かれるパーティーには初めて招待されたのだと言う。

『あの、もしかして……?』

 彼女の父上はさっきまで観察していた、あの成り上がり男だったのだ。

 俺は神に感謝した。
 あの、成り上がり男にも。

 今日もしも彼女に出会えていなかったら、いつかどこかの男と恋に落ちるか、或いは縁談が来て婚約者になるかもしれないのだ。
 そう思ったら、俺の取る行動は一つしかない。

 そんな俺の思惑を知ってか知らずか、彼女が言った。

『あちらにいらっしゃる方はどなたですか?』
< 54 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop