契約結婚は月に愛を囁く
 実は俺とメリルは数ヶ月前まで共に寄宿学校の生徒で、ダビデとも勉学を共にした事がある。
 メリルと彼の互いの関係は友人の域を出ていなかった。
 そしてダビデは寄宿学校を出た後、ずっと恋い焦がれていた女と夫婦になった。 二人とも平民同士。
 身分差など何の障害もなく、幸せに暮らしていると聞く。

 メリルと俺は愛情など持たない関係でも、互いの気持ちはよく知っていた。
 だからメリルの誘いを断れなかった。

 ダビデを忘れる為に俺に抱いてくれと言ったのだから。 自分に逃げ道を作らない為に。
 なのに、メリルは俺を見ながら泣いた。

『どうした?』

 心が繋がらない関係でも、初めてなのだからせめて優しくしているつもりだったのに。
 何故泣くのか、と見下ろして聞いても……。

『何でもありません』

『いいから言ってみろ。嫌ならやめるから』

『ただ、悲しいだけです……』

 好きな男を想いながら、俺を前にして泣いたメリル。
 その時だけは慰める言葉を何も持ち合わせてはいなかった。
< 6 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop