契約結婚は月に愛を囁く
 そんなメリルは薔薇の花がとてもよく似合う。

 庭園のあちらこちらから香る花は鼻腔をくすぐり、気持ちを穏やかにしてくれた。
 それは薔薇のようなメリルと気持ちが通じ合っていたからだろう。

『メリル、素敵な香りがするね』

『花を愛でるとね、優しい気持ちになれるのですよ』

『例えばどんな?』

『だってカークス様のお顔、楽しそうに笑っていらっしゃるもの』

『メリルだって、同じだよ』

 俺はメリルと一緒にいると楽しくて時間を忘れてしまうくらいだった。
 普段の俺は、父上が雇った家庭教師に習って机に向かうばかり。 それ以外では音楽を嗜んだり、読書をしたり。 時には父上相手に現在の社会のあり方を学んだり。
 それはそれで有意義ではあった。
 いつか自分が伯爵位を継いだ時の為に必要な時間だったから。

 だから誰かと笑って散歩したり、はしゃいだりなんてそんな事は殆どなかったのだ。
 俺にとってのメリルと過ごす時間が本当に嬉しくて、大切だった。
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