契約結婚は月に愛を囁く
「カークス、待っていたわ」

 そう言いながら彼女は、俺の胸に抱き着くようにしがみつく。

「アイリス嬢、どうして君がここに……?」

 俺はアイリスを無理矢理引き剥がして距離を取った。

「君はいったい、ここで何をしている?」

 婚約者でもない彼女がどうして我が物顔でここにいるのだ。
 あの、俺を惹き付けた微笑みの眼差しで。
 ところがアイリスは全く何の疑問も感じないらしく、当たり前のように言う。

「ここは貴方と私の家になるでしょう?」

「は?」

「それよりもアイリス嬢だなんて他人行儀な言い方はやめて」

 事態が上手く飲み込めない。
 俺は思わずジョージに視線を移した。

「今日の昼頃、こちらの方がいらっしゃったのです。 カークス様の新しい婚約者になったのだと言って」

 ジョージはとても不愉快そうだ。

 もちろん俺も初耳な話と無神経な訪問に怒りを覚えつつ、冷静に話をしようと心掛けた。

「どういうつもり?」

「だって私のお腹にはカークスとの子ができる予定なのだもの」

 恥じらいを見せつつ、まるでそれが事実のように言う。

「できる、予定?」
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