契約結婚は月に愛を囁く
 これは玄関先で話す内容ではない。
 覚悟していたつもりだが、さすがに違和感を拭えない。
 ジョージは不服な顔をしていたが、話は応接間でなければ無理だ。

「すまないが、ジョージ。 女中にお茶を持って来させたら、君以外は誰も近付けさせないようにしてくれ」

「承知致しました」

 応接間へ移動すると、さっそくアイリスはふかふかのソファーに悠然と座ってお茶を手にした。

 俺はソファーに座る気にはなれず、窓辺にもたれ掛かるように立ったままだ。
 ジョージにも居てもらう必要があると感じた俺は、部屋の隅で状況を見守らせている。

「それで、アイリス嬢。 説明してくれるだろうか」

「何の事?」

「君のお腹に俺の子がいると言うが」

「正確にはまだよ。 これからできる予定だから」

「だが、俺が君とその……関係を持ったのはジョルジュの屋敷での、ほんの数日前の事だ」

「えぇ、そうね」

「だったら」

「でも、貴方の子ができるわ」

「どうしてそんな事がわかる」

「私にはわかるのよ」

 そう言って、意味深に微笑んだ。
 それが俺の知るアイリスではない気がするのは確かな感覚のはずだ。
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