契約結婚は月に愛を囁く
 そこから少し遠い距離ではあったが、確かに間違いなく同じ使用人だった。
 ただ、少女の顔は見ていなかったので同じかどうかはよくわからない。
 それでも、どういうわけだか確信があった。
 あの時、ドレスを着た女の人と一緒にいた子だと。

『あら……? ねぇ、お母さん。 あの子、私によく似ていると思わない?』

 私とは正反対の綺麗なドレスに帽子も被り、使用人は傘で少女を陽射しから守っていた。
 まるで私と生き写しのような少女。

『ねぇ……お母さん』

 気持ちが悪くなった。
 どうして私があそこにいるの?
 私ではない私があんな綺麗な格好をしているのはどうしてなの?

 すると、お母さんは途端に私の手を強く握り、家路を急いだ。

『お母さん、どうしたの?』

 買い出しの荷物を片手に私の手を引っ張るように歩いて行く。
 何も言わない、口を閉ざしたままだ。
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