契約結婚は月に愛を囁く
 その日の夜、早めにベッドで寝るように言われた私は目が冴えて眠れなかった。

 村で見た今日のあの子の顔が散らついてしまう。
 あれは何だったのか。
 私によく似ている気がしたのは、そこから遠かったから見間違えたのだろうか。

 そう思ったら、余計に眠れなくなったのだ。
 ベッドで何度も寝返りを打ちながら、目を閉じて寝ようとした。

 そこへ、扉の向こうから話し声が聞こえて来る。
 両親がまだ起きていて、声を潜めながら何か話をしているらしい。
 私は上半身を起こして扉に近付き、聞き耳を立てた。

『まさか、あんな所で出会すだなんて思わなかったわ』

『ミアは気付いたのか?』

『多分、似ていると思っただけで気付いてはいないはずよ』

『しばらくミアを村に出さない方がいいな』

『えぇ、そうね。 自分が捨てられただなんて知ったら、どんなにショックを受けるか……』

『姉は金持ちだというのにな……』

『それについては毎月、給金が出されているのだもの』

『だが……渡せと言っているだろ』

『嫌よ! どれだけ私達が……』

『そうとも、あの子は私達の娘だ』

『渡してたまるものですか』
< 84 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop