契約結婚は月に愛を囁く
 あの日の夜に聞こえた、両親の会話の意味は当時の私にはよくわかっていなかった。

 途中でベッドに潜り込んで耳を塞いでしまったから。 ただとにかく聞きたくない、知りたくないという拒絶が先走ったから。

 あんな話は嘘だ、デタラメだ、と。
 ところが嘘ではないのだと私の心は言う。

 私は捨てられた、いらない子供だった。
 両親は私を給金目当てに拾った。 そして今でも貰っている。

 考えてみれば、どこかおかしかった気がする。

 ごく普通の家なのに、お金に困った雰囲気が全くなかったのだ。
 贅沢をした事はなくても、食べ物は美味しい物を食べさせてもらえた。
 他の同い年の子達の家は皆、毎日の食べ物にも困っていたのに。

 それは私と引き換えに貰った給金のおかげ?
 そう思ったら、この幸せが偽物のように感じられて来た。 嫌いだ、いらない私を捨てた親も拾った親も。
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