契約結婚は月に愛を囁く
 再び、両親の話し声が聞こえて来たのだ。
 今度もひっそりと、私に聞かれないように声を抑えて。

『ミアは眠ったか?』

『えぇ、すっかり寝息を立てて夢の中よ』

『だったら大丈夫だな』

『これ、お屋敷の方から今月も届いたわ』

『ちゃんとこれまでの分も隠してあるだろうな?』

『もちろんよ。 あの子に見付からないようにベッドの下に隠してあるわ』

『そうか』

『お屋敷の方が文も持って来たの』

 母は文らしき紙を父に手渡したらしく、パサパサという音が耳に聞こえる。

『何が書かれてあるの?』

『ミアを返して欲しいそうだ。 今まで育ててくれた恩と謝礼金も弾むと書いてある』

『勝手だわ! いらないと言うから私達が育てたのに』

『確かにミアが邪魔だから貰ってくれと言われたようなものだが……』

『貴方はあの子を手放すつもりなの?』

『これまでできなかった分の贅沢をさせてやりたいそうだ。 花嫁修業も婚約者も』

『ミアは平民でいいのよ、平凡な幸せが一番よ』

『それはそうだが……』
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