契約結婚は月に愛を囁く
『ミア、ちょっと洗濯に行って来るから留守番していてね』

『わかったわ』

『勝手に遊びに行ったりしたら駄目よ』

『大人しくしてるわ』

 数日後の昼下がり。
 仕事に出掛けた父、洗濯に出掛けた母。 家の中には私一人きり。

 今しかない、と思った。

 私の家は貴族様のように一つ一つの部屋が分かれているわけではない。 食事をするのも何をするのも、寝る時以外は全て一つの部屋。 応接間だとか居間や台所だとか寝室だとか、そんなものは何もない。

 そして両親の部屋は二人で寝るには少し狭いベッドが一つのみ。
 その両親のベッドの中を捲って、手を入れた。
 すると、両親が毎日横になって寝ているはずのそこにはたくさんの布袋が隠されていたのだ。

 おそらく、かなりの金額があるはずだと想像できる。
 これは私が売られた金なのだ、この上でいつも寝ているのだ。
 私は心の奥底から沸き上がる腹立ちと、本当の家族の冷たさを知った。

 騙されていたのだ、そう思った。
 そして、決めた。 滅茶苦茶にしてやる、と。
 あの母親らしき女と、私を育てた両親、そして私と同じ顔をした無垢な振りをする、あの女も。

『みんな、みんな大嫌い! みんな嘘つき!』

 わずか六歳の、ろくな知恵もない少女。

 あの甘くて夢のような味わいの飴細工は、実は脆くて壊れやすいのだと知らなかった。

 そして飴細工のような宝石は、舐めると苦くて冷たいのだと最近知った。
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