契約結婚は月に愛を囁く
「そこは村外れの小さな森でね、ほとんど誰も立ち寄らない場所。 昔は子供が遊ぶ事もあったらしいのよ。 ところが、そこは地盤が緩くて事故が……わかるでしょ? それ以来、誰かが入る事はなくなったのね。 だから私は知っていた、あの子の立った場所がそうだって。 そして私があの子の肩をちょっと突ついたら、脆い地盤があっさり崩れて行ったのよ」

「アイリス……」

「上から下を見下ろすと、あの子の姿はどこにも見えなかった。 その時、私は何を考えていたと思う? おかしくて笑えたの、空を見上げて神様ありがとうとお祈りしたわ」

 聞いているのが辛かった。
 アイリスが泣きながら笑うのだ。

「それからの私が何をしたか、わざわざ言わなくてもわかるでしょ?」

 アイリスはそのままの格好で、姉の振りをして使用人とキャンベル家へと帰ったのだ。

「キャンベル家は初めてのはずだろ?」

「実はね、あの子が堕ちた所で私も堕ちてみたのよ。 その後は怪我して立てないながらも、健気に歩いてね」

「君はそんな事まで……」

「それ以来、あの村に行く事はなくなったわ。 お父様が行かせようとしなかったし、私も怖いから嫌だと言ったから」
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