契約結婚は月に愛を囁く
 孤独な六歳の少女アイリスは何を夢見ていたのだろうか。
 いや、希望に胸をふくらますなんて考えもしなかったのかもしれない。

「カークスはパーティーを覚えているかしら? メリル様を隣に置いて。 私、見ていたのよ。 あれが王族の血を引く人間だ、 あの人の隣にいるのがもしも私だったら、この先はもっと誰も手に入れられない素敵な未来が待っているのに……なんてね」

 俺はどうしてもアイリスに確かめたい事があった。

「君は魔術を使えるのか?」

「魔術……」

「俺の夢に君が現れて、言ったんだ。願いを叶えて、と」

「そうね。 貴方と、メリル様のおかげだわ」

「メリル?」

「あの方は本当にお優しいわね。 愛する貴方を私に譲って下さるなんて、とても慈しみの深い方」

「どういう事だ?」

「貴方もメリル様も、貴族というのは本当に無神経な偽善者よね。 嫌いだわ、そういうの。 可哀想な私の為に骨を折って下さるなんて馬鹿だもの」

「アイリス……」

「寄宿学校に先生がいらっしゃったの覚えてるかしら。 あの男は私の正体に気付いたの、アイリスではない事に。 そして要求されたわ、秘密にする代わりに。 私ね、初めては貴方が良かったのよ。 なのに……。 それ以来、関係は続いたわ。 そして彼が教えてくれたの、願いを叶えるには強力な想いが必要だって」

「それが満月の」

「ジョルジュはただ、私に協力してくれただけよ。 貴方と結婚するから私の望みを叶えさせて、と言ってね」
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