Diary ~あなたに会いたい~
確かに、法律上問題がないのなら、そこまで
二人の関係を咎める必要もないように感じる。
世間体というものを気にすれば、親子という
カテゴライズから外れてしまうことに抵抗が
あるのかも知れないが……
そんなことを考え、永倉恭介と同様に僕も
腕を組んだ時だった、父親が、実は、と消え
入りそうな声を発した。
「大変お恥ずかしい話なのですが……妻が
弓月に辛くあたるようになった原因は………
私にもあるんです」
僕たちは怪訝な顔をして父親を見た。
父親は尚も言いづらそうに口ごもる。
「実は、妻と上手くいかなくなってまもなく、
私の方に、その……不貞行為がありまして」
僕は一瞬、父親の言葉が理解できなかった。
不貞というのは、浮気や不倫のことだろうか?
再婚したばかりだというのに?
まさか……
「魔が差したなんて、言い訳をするつもりは
ありません。ただ、本当にその時は妻と続けて
いく自信がなくて、妻を裏切ってしまいました。
そして、その事があってから、妻の弓月への態度
がさらに悪くなってしまったんです」
父親は目を閉じてガクリと項垂れた。
僕は呆然とその姿を眺める。
再婚したばかりの夫が不貞を働き、その娘まで
もが最愛の息子を奪ってゆく。
義母の憎悪が弓月に向かってしまうのも
わかる気がした。
だからすべての原因は自分にあると、この父親
は最初にそう言ったのだ。
もしかしたなら、夫婦仲が円満にいっていれ
ば、弓月と弓弦の恋もまた、祝福されたかも
知れない。
けれど、その未来は狂わされてしまった。
「あの……二人が亡くなった夜、弓月の部屋で
何があったのか……まったく見当もつかないんで
すか?」
僕はずっと気になっていたことを訊ねた。
その途端、父親の顔色が変わる。
僕は永倉恭介と顔を見合わせた。
やはり、この父親は何か知っているようだ。
「何か心当たりがあるんですね?」
永倉恭介が答えを促した。
「さっき……小林先生はあえてこの話を伏せて
くれたようですが、実は、倒れていた弓月の首に
……絞められたような跡があったんです」
「首を、絞めた跡?」
ガンと頭を殴られたように視界が揺れて、僕は
酷く顔を顰めた。
弓月の首に絞められたような跡が残っている
なら、二人の死因は自死でも事故でもなく、
事件の可能性が高くなる。
「それは、何かで首を絞められた跡、という
ことですか?誰か……人の手で絞められたもの
なら、彼女の身体に指紋が残っていますよね?」
永倉恭介が険しい顔をして訊ねる。
父親は自分の手の平を見下ろしながら、「妻で
す。指紋は……妻のものでした」と、呻くように
言った。
そうして、徐に顔を上げた。
二人の関係を咎める必要もないように感じる。
世間体というものを気にすれば、親子という
カテゴライズから外れてしまうことに抵抗が
あるのかも知れないが……
そんなことを考え、永倉恭介と同様に僕も
腕を組んだ時だった、父親が、実は、と消え
入りそうな声を発した。
「大変お恥ずかしい話なのですが……妻が
弓月に辛くあたるようになった原因は………
私にもあるんです」
僕たちは怪訝な顔をして父親を見た。
父親は尚も言いづらそうに口ごもる。
「実は、妻と上手くいかなくなってまもなく、
私の方に、その……不貞行為がありまして」
僕は一瞬、父親の言葉が理解できなかった。
不貞というのは、浮気や不倫のことだろうか?
再婚したばかりだというのに?
まさか……
「魔が差したなんて、言い訳をするつもりは
ありません。ただ、本当にその時は妻と続けて
いく自信がなくて、妻を裏切ってしまいました。
そして、その事があってから、妻の弓月への態度
がさらに悪くなってしまったんです」
父親は目を閉じてガクリと項垂れた。
僕は呆然とその姿を眺める。
再婚したばかりの夫が不貞を働き、その娘まで
もが最愛の息子を奪ってゆく。
義母の憎悪が弓月に向かってしまうのも
わかる気がした。
だからすべての原因は自分にあると、この父親
は最初にそう言ったのだ。
もしかしたなら、夫婦仲が円満にいっていれ
ば、弓月と弓弦の恋もまた、祝福されたかも
知れない。
けれど、その未来は狂わされてしまった。
「あの……二人が亡くなった夜、弓月の部屋で
何があったのか……まったく見当もつかないんで
すか?」
僕はずっと気になっていたことを訊ねた。
その途端、父親の顔色が変わる。
僕は永倉恭介と顔を見合わせた。
やはり、この父親は何か知っているようだ。
「何か心当たりがあるんですね?」
永倉恭介が答えを促した。
「さっき……小林先生はあえてこの話を伏せて
くれたようですが、実は、倒れていた弓月の首に
……絞められたような跡があったんです」
「首を、絞めた跡?」
ガンと頭を殴られたように視界が揺れて、僕は
酷く顔を顰めた。
弓月の首に絞められたような跡が残っている
なら、二人の死因は自死でも事故でもなく、
事件の可能性が高くなる。
「それは、何かで首を絞められた跡、という
ことですか?誰か……人の手で絞められたもの
なら、彼女の身体に指紋が残っていますよね?」
永倉恭介が険しい顔をして訊ねる。
父親は自分の手の平を見下ろしながら、「妻で
す。指紋は……妻のものでした」と、呻くように
言った。
そうして、徐に顔を上げた。