Diary ~あなたに会いたい~
「久しぶりだね。突然来ちゃって悪いんだけ
ど、いま、いいかな?」
白髪交じりの頭に手をやりながら、目尻に
深いシワを刻み微笑うその男は、最後まで、
僕の“父親”にならなかったその人、高田弘之
だった。
「………どうぞ」
具合が悪いから、と、追い返すこともできず、
かと言って、愛想よく迎え入れることもできず。
僕は厚手のカーディガンを引っ掛け、ケトルで
湯を沸かすと、彼にインスタントコーヒーを出し
た。怠い身体をベッドの背に預けて座る。
テーブルを挟んで、向かい側にどっか、と胡坐
をかいて座った高田は、「ありがとう」と、
白い歯を見せてマグカップを手に取った。
「和くん、もしかして寝てたのか?顔色悪い
けど、熱でもあるんじゃ……」
飛び起きたままの乱れたベッドと、僕のパジャ
マ姿を見ながら、高田の表情が心配げなものに
変わる。
僕はテーブルに視線を落としたまま、いえ、と
首を振った。
「大丈夫です。さっき、薬飲んだから」
「やっぱり、具合が悪いのか。起こしちゃって
悪かったね。僕は出直すから、早く休みない。
ああ、その前に、何か食べるものでも買ってこよ
うか?そこのコンビニ行ってくるから、何か必要
なものがあったら言いなさい」
尻のポケットから財布を取り出しながら、高田
が立ち上がる。僕は、彼の顔を見上げると、僅か
に声に苛立ちを滲ませて言った。
「必要なものは帰りに買ってきたから、あり
ません。それより、早く用件を話してくれませ
んか?」
母がいない今、馴れ馴れしく“和くん”と呼ばれ
たことも、家族のような顔をして心配されたこと
も、苛立たしかった。もうずっと、会うことも
ないと思っていたのに……
どうして、いま、このタイミングでここに来た
のだろう?不思議で仕方ない。
僕の尖った声に一瞬、顔を強張らせながらも、
高田は財布をポケットにしまって笑った。
「そうだな。早く用を済ませて帰った方が、
君もゆっくりできるか。まあ、用って言っても、
これを、返しに来ただけなんだが……」
「返すって、何をですか?」
怪訝な顔をしてそう訊ねた僕に、高田はセカン
ドバッグから取り出した封筒を僕の前に置いた。
「これ……」
目の前に置かれたそれに目をやって、高田の
顔をみる。何か、と問わなくても、現金が入っ
ているであろうことは、容易にわかった。
封筒の厚みからして、100……200万ぐらい
ありそうだ。
「何ですか、これ」
僕は封筒の中身を確認しないまま、高田に
訊いた。
ど、いま、いいかな?」
白髪交じりの頭に手をやりながら、目尻に
深いシワを刻み微笑うその男は、最後まで、
僕の“父親”にならなかったその人、高田弘之
だった。
「………どうぞ」
具合が悪いから、と、追い返すこともできず、
かと言って、愛想よく迎え入れることもできず。
僕は厚手のカーディガンを引っ掛け、ケトルで
湯を沸かすと、彼にインスタントコーヒーを出し
た。怠い身体をベッドの背に預けて座る。
テーブルを挟んで、向かい側にどっか、と胡坐
をかいて座った高田は、「ありがとう」と、
白い歯を見せてマグカップを手に取った。
「和くん、もしかして寝てたのか?顔色悪い
けど、熱でもあるんじゃ……」
飛び起きたままの乱れたベッドと、僕のパジャ
マ姿を見ながら、高田の表情が心配げなものに
変わる。
僕はテーブルに視線を落としたまま、いえ、と
首を振った。
「大丈夫です。さっき、薬飲んだから」
「やっぱり、具合が悪いのか。起こしちゃって
悪かったね。僕は出直すから、早く休みない。
ああ、その前に、何か食べるものでも買ってこよ
うか?そこのコンビニ行ってくるから、何か必要
なものがあったら言いなさい」
尻のポケットから財布を取り出しながら、高田
が立ち上がる。僕は、彼の顔を見上げると、僅か
に声に苛立ちを滲ませて言った。
「必要なものは帰りに買ってきたから、あり
ません。それより、早く用件を話してくれませ
んか?」
母がいない今、馴れ馴れしく“和くん”と呼ばれ
たことも、家族のような顔をして心配されたこと
も、苛立たしかった。もうずっと、会うことも
ないと思っていたのに……
どうして、いま、このタイミングでここに来た
のだろう?不思議で仕方ない。
僕の尖った声に一瞬、顔を強張らせながらも、
高田は財布をポケットにしまって笑った。
「そうだな。早く用を済ませて帰った方が、
君もゆっくりできるか。まあ、用って言っても、
これを、返しに来ただけなんだが……」
「返すって、何をですか?」
怪訝な顔をしてそう訊ねた僕に、高田はセカン
ドバッグから取り出した封筒を僕の前に置いた。
「これ……」
目の前に置かれたそれに目をやって、高田の
顔をみる。何か、と問わなくても、現金が入っ
ているであろうことは、容易にわかった。
封筒の厚みからして、100……200万ぐらい
ありそうだ。
「何ですか、これ」
僕は封筒の中身を確認しないまま、高田に
訊いた。