Diary ~あなたに会いたい~
 「もちろん。僕と和子は、永遠に恋人だから
ね。結婚できても、できなくても、僕たちは
ずっと恋人でいる。そう誓って、この指輪を交換
したんだ。だから、どちらかが先にこの世を去っ
ても、この指輪は外さない。永遠に、左手に嵌め
ることは出来なくてもね」

 まるで初めて恋をする少女のように、恥ずかし
げもなく、高田が幸せそうな顔をする。もしい
ま、この場に母がいたなら、間違いなく隣で頬を
赤らめているだろう。

 「永遠の、恋人ですか……」

 どうしてか、胸の奥にちくりと痛みを覚えて、
僕は視線を落とした。弓月の顔が脳裏に浮かぶ。
 胸が痛む理由は、彼女しかいない。

 「ああ、ごめん。いい歳したオヤジの口から、
こんな恥ずかしい話聞かされても困るよな。君に
会えたのが嬉しくて、つい………今のは忘れて
くれ」

 目を伏せてしまった僕に、慌てて顔の前で手を
振ると、高田は肩を竦めた。僕は顔を上げて首を
振る。もう、彼がここへ来た時のわだかまりは
解けていた。

 どちらともなく、次の言葉を探しながら笑みを
浮かべた。



-----その時だった。



 くぅ、と、僕のお腹が鳴った。
 すっかり忘れていた。最後にご飯を食べたの
は、いつだっただろう?

 「ああ!お腹空いただろう?何か買って来よ
う」

 いそいそと、高田が部屋を出て行こうとする。
 僕は慌てて彼を引き留めた。

 「大丈夫です。うどんが買ってあるんで。
良かったら、一緒に食べませんか?鍋焼きうどん
……2つあるんです」

 ぴたりと高田の背中が止まった。
 肩から落ちそうになるカーディガンを、片手で
押さえながら、僕は彼が振り返るのを待った。

 「食べようか。一緒に。僕が作るから」

 振り返った高田は、泣きそうな顔で笑うと、
 袖のボタンを外しながらキッチンへ向かった。










-------永倉 恭介 殿


 辞令

 〇〇年○○月○○日付けで、〇〇部課長の任を
解き、○○部○○副部長の勤務を命じます。
 今後の活躍を期待しています。
                    以上




 一昨日交付された辞令書を一瞥すると、俺は
助手席に置いてある鞄にそれを放り込んだ。
 週明けには、部長に返事をしなければならな
い。悩める時間はごく僅かで……だからいま、
俺はここに来たのだ。

 大通りから少し外れた小さなコインパーキング
に車を停めると、俺は通りへ向かって歩き始めた。

 あの日。

 初めて夜景を観に行った帰り、ゆづるを降ろ
した十字路の信号に立って辺りを見渡す。
 朝と夜では少々景色が違って見えたが、大通り
を渡った向こう側に、すぐにその店は見つかった。
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