Diary ~あなたに会いたい~
「ありがとうね。好きな人を、好きでいら
れるように、ずっと支えてくれて」
突然、尚美が真剣な顔をしてそんなことを
言うので、俺は隣を歩く彼女の顔を覗き見た。
少し泣きそうな眼差しが、俺を捕まえる。
くっ、と胸が痛んだ。
「あなたがいてくれて、本当に良かった。
でも、これからは、大丈夫。恭介がその人と
上手くいくように祈ってるから」
何も、知らないはずの尚美が笑う。
俺は目を細めて頷き、彼女の肩を抱いて
言った。
「俺も。尚美がいてくれて、本当に良かった」
「だいぶ、顔色が良くなったな」
山積みのブックトラックの向こうから、
突然、近藤さんの声がして、僕は棚に伸ばし
かけていた手を止めた。
数冊の書籍を手に振り返ると、近藤さん
が気遣うように僕を見上げている。
僕はトントン、と脚立を下りて、彼に頭
を下げた。
「はい、お陰様で。あの、色々とご迷惑を
かけて、すみませんでした」
「そんなことはいい。人間、不死身じゃな
いんだ。具合が悪いときは休む。しっかり治
してから、また元気に働く。それがいい仕事
をするための基本だからな」
黒縁メガネの奥の瞳を細めて、近藤さんが
頷く。僕は今まで知ることのなかった、彼の
意外な一面に触れ、内心、胸が温まるのを感じ
ながら笑んだ。
結局、あの晩下がらなかった熱は40度まで
上がり、僕はそのまま2日間寝込んでしまった。
冷蔵庫が空っぽだから、と、鍋焼きうどん
を食べ終わった高田が、買い出しをしておいて
くれなかったら、もっと回復に時間がかかって
いたかも知れない。
高田がコンビニで買ってきてくれたバナナ
やヨーグルト、冷凍のチャーハンや麺類は、
どれも簡単に食べられるものばかりで、弱っ
た身体にありがたかった。
「しっかり食べて、体調管理に気を付けます」
笑んだままでそう口にすると、近藤さんが
いっそう大きく頷く。
「食べることは大事だ。腹が膨れれば眠くも
なるし、眠ればまた腹が減る。人間はメシさえ
しっかり食っていれば、自然に元気を取り戻せ
るようにできているんだ」
------食べれば元気が出る。
という、あながち嘘とも言えない近藤さんの
理屈に、僕も頷いた。現に、食べることで回復
したのは身体だけでなく、弓月のことですっか
り塞ぎ込んでいた気持ちも、何となくではある
けれど、前を向き始めていたからだ。
もう、真実からも、現実からも、逃げることは
できない。僕はこれから自分がどうしたいのか、
考えて答えを出さなければならないのだ。
「それが終わったら、カウンターへ戻ってく
れ。今日はいつもより利用者が多いみたいだ」
「わかりました」
口早にそう言ってこの場を去ろうとする背中に
返事をすると、僕はまた脚立に脚をかけた。
れるように、ずっと支えてくれて」
突然、尚美が真剣な顔をしてそんなことを
言うので、俺は隣を歩く彼女の顔を覗き見た。
少し泣きそうな眼差しが、俺を捕まえる。
くっ、と胸が痛んだ。
「あなたがいてくれて、本当に良かった。
でも、これからは、大丈夫。恭介がその人と
上手くいくように祈ってるから」
何も、知らないはずの尚美が笑う。
俺は目を細めて頷き、彼女の肩を抱いて
言った。
「俺も。尚美がいてくれて、本当に良かった」
「だいぶ、顔色が良くなったな」
山積みのブックトラックの向こうから、
突然、近藤さんの声がして、僕は棚に伸ばし
かけていた手を止めた。
数冊の書籍を手に振り返ると、近藤さん
が気遣うように僕を見上げている。
僕はトントン、と脚立を下りて、彼に頭
を下げた。
「はい、お陰様で。あの、色々とご迷惑を
かけて、すみませんでした」
「そんなことはいい。人間、不死身じゃな
いんだ。具合が悪いときは休む。しっかり治
してから、また元気に働く。それがいい仕事
をするための基本だからな」
黒縁メガネの奥の瞳を細めて、近藤さんが
頷く。僕は今まで知ることのなかった、彼の
意外な一面に触れ、内心、胸が温まるのを感じ
ながら笑んだ。
結局、あの晩下がらなかった熱は40度まで
上がり、僕はそのまま2日間寝込んでしまった。
冷蔵庫が空っぽだから、と、鍋焼きうどん
を食べ終わった高田が、買い出しをしておいて
くれなかったら、もっと回復に時間がかかって
いたかも知れない。
高田がコンビニで買ってきてくれたバナナ
やヨーグルト、冷凍のチャーハンや麺類は、
どれも簡単に食べられるものばかりで、弱っ
た身体にありがたかった。
「しっかり食べて、体調管理に気を付けます」
笑んだままでそう口にすると、近藤さんが
いっそう大きく頷く。
「食べることは大事だ。腹が膨れれば眠くも
なるし、眠ればまた腹が減る。人間はメシさえ
しっかり食っていれば、自然に元気を取り戻せ
るようにできているんだ」
------食べれば元気が出る。
という、あながち嘘とも言えない近藤さんの
理屈に、僕も頷いた。現に、食べることで回復
したのは身体だけでなく、弓月のことですっか
り塞ぎ込んでいた気持ちも、何となくではある
けれど、前を向き始めていたからだ。
もう、真実からも、現実からも、逃げることは
できない。僕はこれから自分がどうしたいのか、
考えて答えを出さなければならないのだ。
「それが終わったら、カウンターへ戻ってく
れ。今日はいつもより利用者が多いみたいだ」
「わかりました」
口早にそう言ってこの場を去ろうとする背中に
返事をすると、僕はまた脚立に脚をかけた。