Diary ~あなたに会いたい~
それが今日、彼女に想いを伝えることを決心し
た理由のひとつで……確かな自信があるわけで
も、予感があるわけでもなかった。
彼女に会えるのは、もしかしたら、これが最後
かも知れない。そんなことを考えれば、頭の中は
くっきりと冴えてしまって、昨夜は一睡もできな
かった。
「こんばんは」
息を切らして店に飛び込むと、彼女は驚いた
ように花を運ぶ手を止めた。
「こんばんは。どうか、したんですか?」
はぁ、と、大きく息を吐いた僕の前に立ち、
エプロンで手を拭きながら顔を覗き込む。
僕は肩で息をしながら、心に決めていたこと
を口にした。
「あの……お店にあるトルコキキョウ、全部
ください」
「全部、ですか?」
驚いた顔で瞬きを繰り返す彼女に、僕は大き
く頷く。明らかに、いつもと様子が違う僕に
戸惑いながらも、彼女は言われた通り、花を手
に取り始めた。
僕はその背中を、汗を拭いながら見つめた。
「1、2、3…………22本ありますけど、
こちらでいいですか?」
白い花束を抱えた、彼女が振り返った。
黙ってまた頷いてみせた僕に、後はもう何も
聞かず、彼女は花束をセロファンで包み始める。
今までにはなかった、ピリと張り詰めた空気
が、少しの間二人の間に流れた。
「お待たせしました」
やがて、予想以上にずしりと重い花束が僕の
腕にのせられた。透明のセロファンに包まれた
白い花束には、いつもと同じ水色のシールが
貼られている。
ふと、初めは金色のシールが貼られていた
ことを思い出し、僕はその事を彼女に訊ねた。
「それは……このお花が贈り物ではなくて、
お母様へのご供養と聞いて。色を変えたんです。
水色は涙の色、っていうイメージがあったから」
「涙の色、か。じゃあ、今日は金色のシール
にしてもらった方が、良かったかも知れないな」
両手にのせられた花束を見下ろした僕に、
はっ、と口元に手をあてる。
「ごめんなさい。このお花、贈り物なんで
すね。おリボンに変えましょうか?」
慌てて手を差し出した彼女に、僕は笑って
ゆっくりと首を横に振る。
た理由のひとつで……確かな自信があるわけで
も、予感があるわけでもなかった。
彼女に会えるのは、もしかしたら、これが最後
かも知れない。そんなことを考えれば、頭の中は
くっきりと冴えてしまって、昨夜は一睡もできな
かった。
「こんばんは」
息を切らして店に飛び込むと、彼女は驚いた
ように花を運ぶ手を止めた。
「こんばんは。どうか、したんですか?」
はぁ、と、大きく息を吐いた僕の前に立ち、
エプロンで手を拭きながら顔を覗き込む。
僕は肩で息をしながら、心に決めていたこと
を口にした。
「あの……お店にあるトルコキキョウ、全部
ください」
「全部、ですか?」
驚いた顔で瞬きを繰り返す彼女に、僕は大き
く頷く。明らかに、いつもと様子が違う僕に
戸惑いながらも、彼女は言われた通り、花を手
に取り始めた。
僕はその背中を、汗を拭いながら見つめた。
「1、2、3…………22本ありますけど、
こちらでいいですか?」
白い花束を抱えた、彼女が振り返った。
黙ってまた頷いてみせた僕に、後はもう何も
聞かず、彼女は花束をセロファンで包み始める。
今までにはなかった、ピリと張り詰めた空気
が、少しの間二人の間に流れた。
「お待たせしました」
やがて、予想以上にずしりと重い花束が僕の
腕にのせられた。透明のセロファンに包まれた
白い花束には、いつもと同じ水色のシールが
貼られている。
ふと、初めは金色のシールが貼られていた
ことを思い出し、僕はその事を彼女に訊ねた。
「それは……このお花が贈り物ではなくて、
お母様へのご供養と聞いて。色を変えたんです。
水色は涙の色、っていうイメージがあったから」
「涙の色、か。じゃあ、今日は金色のシール
にしてもらった方が、良かったかも知れないな」
両手にのせられた花束を見下ろした僕に、
はっ、と口元に手をあてる。
「ごめんなさい。このお花、贈り物なんで
すね。おリボンに変えましょうか?」
慌てて手を差し出した彼女に、僕は笑って
ゆっくりと首を横に振る。