Diary ~あなたに会いたい~
 「いえ、あなたが気にしないなら、僕は
それで」

 「???」

 話の意図がまったく見えない彼女が、首を傾げ
る。僕は静かに息を吸いこんで、いま、受け取っ
たばかりの白い花束を彼女の両手にのせた。

 「あなたに」

 彼女の瞳が大きく開かれた。表情が止まる。
 何かを口にしようと唇が開かれたが、言葉は
何も出てこなかった。
 僕は、今にも口から飛び出してしまいそうな
心臓を、ぐっ、と飲みこむと、まっすぐに彼女
を見つめ、言葉を紡いだ。

 「あなたが、好きです。もし、僕の気持ちが
迷惑でなければ、この花を受け取ってくれませ
んか?」

 シン、と店内が静まり返った。
 彼女は目を見開いたまま、固まっている。

 緊張のあまり、激しくなりすぎた血流が耳の奥
でざらざらと音を鳴らしたので、僕は彼女の声を
聞きとろうと、耳を澄ました。

 突然、糸が切れた人形のように、彼女がペタリ
とその場に座り込んでしまった。

 「大丈夫ですか!?」

 驚いて彼女の前に屈んだ僕の顔を見つめると、
彼女は両手を胸にあて、細く長く息を吐いた。

 「びっくりした。明日から、もう、お店に来て
くれないのかと……思っちゃった」

 微笑んだ彼女の瞳には、涙が滲んでいる。
 僕は信じられない気持ちで、彼女の瞳の中の
自分を見つめ、その先の答えを待った。

 「嬉しいです。私も、あなたが好き…っ!!」

 彼女が言い終えるまで、待てなかった。

 僕は花束ごと、思いきり彼女の肩を抱き
よせた。



-----20××年7月2日。



 この日、僕と弓月の恋が始まった。

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