Diary ~あなたに会いたい~
「もちろん。ゆっくり読んで。この作者の
探偵シリーズはどれも面白いけど、特にこの
作品の叙述トリックは本当に凄いから。きっ
と最後まで……っ」
そこまで言った僕の唇を、弓月の人差し指
が、ぴっ、と止めた。
「ダメ。聞いちゃったら、読む楽しみがな
くなっちゃうでしょう?それ以上言わないで」
子供を諭すような目で、弓月が僕を見る。
「……ごめん」
いつもの癖でつい、しゃべりすぎてしまっ
た僕は、口をへの字にしてコーヒーカップに
手を伸ばした。
-----しまった、空っぽだ。
僕は弓月の顔を覗き込んだ。
「弓月、何か頼む?僕はコーヒーおかわりする
けど」
「じゃあ、私も同じの頼もうかな。夕食はお父
さんと食べるから、今日も8時には帰らないと」
「わかった」
僕は手を挙げ、カウンターに声をかけた。
「はい」
注文を終えた僕が次に差し出したのは、何の
変哲もない白い封筒で……
ソファーに背を預けた弓月は、なに?と、体を
起こした。
「植物園行った時の。良く撮れていたから」
封筒を受け取った弓月が、ああ、と頬を緩め
る。手に取って封を開けると、1枚の写真を
取り出した。
「ほんとだ。よく撮れてる」
そう呟いて、弓月は眩しそうに写真を眺めた。
紫陽花の前で二人、手を繋いでいるその写真
は、明るい太陽に照らされ白く見える薄紫の
色彩が、どこか儚く見える。
「大事にするね」
と、弓月は写真を封筒に戻すと、借りた本の間
に挟んで鞄にしまった。
「写真っていいね。これがあれば、会えない
時間も寂しくないから」
照れたように肩を竦めて、弓月が微笑む。
「そう?」
僕も笑って、彼女の右手に自分の手を絡めた。
その手を、きゅ、と握り返す弓月の温もりを
感じれば、ジン、と胸の奥が痺れる。
あの日から毎日、こうして時間を共にして
いるのに、それでも、会えない時間を寂しいと、
弓月が言ってくれる。
-----幸せすぎた。
探偵シリーズはどれも面白いけど、特にこの
作品の叙述トリックは本当に凄いから。きっ
と最後まで……っ」
そこまで言った僕の唇を、弓月の人差し指
が、ぴっ、と止めた。
「ダメ。聞いちゃったら、読む楽しみがな
くなっちゃうでしょう?それ以上言わないで」
子供を諭すような目で、弓月が僕を見る。
「……ごめん」
いつもの癖でつい、しゃべりすぎてしまっ
た僕は、口をへの字にしてコーヒーカップに
手を伸ばした。
-----しまった、空っぽだ。
僕は弓月の顔を覗き込んだ。
「弓月、何か頼む?僕はコーヒーおかわりする
けど」
「じゃあ、私も同じの頼もうかな。夕食はお父
さんと食べるから、今日も8時には帰らないと」
「わかった」
僕は手を挙げ、カウンターに声をかけた。
「はい」
注文を終えた僕が次に差し出したのは、何の
変哲もない白い封筒で……
ソファーに背を預けた弓月は、なに?と、体を
起こした。
「植物園行った時の。良く撮れていたから」
封筒を受け取った弓月が、ああ、と頬を緩め
る。手に取って封を開けると、1枚の写真を
取り出した。
「ほんとだ。よく撮れてる」
そう呟いて、弓月は眩しそうに写真を眺めた。
紫陽花の前で二人、手を繋いでいるその写真
は、明るい太陽に照らされ白く見える薄紫の
色彩が、どこか儚く見える。
「大事にするね」
と、弓月は写真を封筒に戻すと、借りた本の間
に挟んで鞄にしまった。
「写真っていいね。これがあれば、会えない
時間も寂しくないから」
照れたように肩を竦めて、弓月が微笑む。
「そう?」
僕も笑って、彼女の右手に自分の手を絡めた。
その手を、きゅ、と握り返す弓月の温もりを
感じれば、ジン、と胸の奥が痺れる。
あの日から毎日、こうして時間を共にして
いるのに、それでも、会えない時間を寂しいと、
弓月が言ってくれる。
-----幸せすぎた。