Diary ~あなたに会いたい~
 「いつも思うけど、この公園、何のために
あるんだろう?」

 子供たちが遊ぶには狭すぎる、低い緑のフェ
ンスに囲まれた公園を見渡して、弓月が言った。
 さあ、と僕も首を傾げる。

 「子供たちが遊ぶために造られた感じはしな
いけど、僕はこの公園、気に入ってるよ。こう
して、弓月と二人きりでいられるし……」

 僕は静かな声で言って、そっと弓月の頭を
引き寄せた。唇が重なる瞬間に、弓月が目を
閉じる。ふわ、と、軽く包みこむように彼女の
唇に自分のそれを重ねた。
 弓月が僕のシャツを握りしめる。
 重ねた唇は痺れるように甘く、柔らかい。
 僕は一度唇を離すと、弓月の顔を覗き込んで、
もう一度唇をついばむように触れ、離れた。

 「苦しい?」

 昨日よりも少し長い口づけが、恋人の息を
止めさせて、心配になる。声もなく、弓月が
小さく首を振る姿が愛おしくて……
 僕は弓月の肩を抱き寄せた。
 弓月とのキスが、僕にとっては人生で初めて
の経験だから、僕はキスが上手いのか下手なの
か、わからない。それでも、腕の中にいる弓月
は、少し頬を染めて笑んでくれている。

 幸せすぎて、目眩がしそうだった。

 そんな幸せな時間も、あと僅かで終わる。
 僕は腕時計の時間を見て小さく息をついた。

 

-----もうすぐ8時になる。


 そろそろ弓月を送っていかなければ………
 僕は弓月の髪に頬を寄せると、努めて自然
に言った。

 「もし良かったら、明日、僕の部屋に来な
い?」

 弓月が顔を上げる。僕は彼女の返事を待たず
に、さらに言葉を続けた。

 「明日は休みだけど、朝から雨みたいだし。
出かけるのも大変だから、僕の部屋でゆっくり
過ごすっていうのは……どうかな、と思って」

 下心がない、と言えば嘘になる。弓月もきっ
と、僕の言葉の裏に見え隠れする本心を、見透
かしているだろう。もし、いやだと言われたら、
どうしようか?そんなことを考えながら、僕は
じっと弓月の返事を待った。

 「うん。いいよ」

 数秒の沈黙ののち、弓月の明るい声がそれを
破った。僕はほっとした顔で、弓月の目を覗き
込む。弓月の眼差しは、いつもと何ら変わら
ない。
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