Diary ~あなたに会いたい~
 「早く行きましょう。夜は短いんだから」

 テーブルにグラスを置いた俺の手に、白く、
細い指を絡める。つ、と彼女の人差し指が
手の甲を緩くなぞって………

 俺はその感触に背筋をぞくりとさせながら、
唇を舐めた。

 参ったな。完璧に彼女のペースだ。
 純粋にこの展開を喜んでいいものか、
いささか悩んでしまう。

 けれど、それも一瞬のことだった。
 俺は目を細め、彼女の手を握った。

 「確かに、夜は短いな。出ようか」

 彼女が笑みを深め、席を立つ。
 俺は、彼女の細い腰に腕を回し、引き寄せた。
 ふわり、と甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 「ご馳走様。また来るよ」

 会計を済ませ、マスターにそうひと言声を
かけると、俺は重い扉を開けて店を後にした。







 備え付けの小さな冷蔵庫を開ける。
 ダウンライトだけの薄暗い部屋に、明るい光
が短く伸びて、すぐ側のデスクを照らした。

 「君も何か飲む?」

 脱ぎ捨てたジャケットとネクタイが散乱する、
ソファーの横に立つゆづるを振り返る。
 と、いま、そこにいた筈の彼女の瞳が、目前に
迫って、細い腕が首に絡められた。

 「要らない」

 そう彼女がそう口にするのと同時に、唇が重ね
られる。俺は腕を伸ばして手にしていたビールを
デスクに置いた。

 小さく、柔らかな唇を貪りながら、俺は背を
抱く腕に力を込めた。唇を割って舌を差し込む
と、それを待っていたように彼女の舌が絡み
つく。少し苦しそうに眉を寄せながら、掻き
抱くように、ゆづるが俺の頭を抱いた。

 どちらともなく、恋人のように、求め合う。
 まるで“愛されている”と錯覚するような濃厚な
時間が、ベッドの上で過ぎてゆく。

 ギシ、とベッドが軋む度に、ゆづるのしなやか
な躰が跳ね、シーツに長い髪が散った。
 波打つような快楽が、ドロドロと頭の芯を溶か
していって、終わらない。

 重なり合う肌がどちらのものかさえ、もう、
わからなくなっていた。
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