Diary ~あなたに会いたい~
朝一番に、「植物・園芸」の棚から引っ張り
出してきた図鑑は、借り手が少ないようで、
背表紙にピタリと張り付いたラベルが新しか
った。
本を開いて間もなく、休憩室の扉が開いて僕
は顔を上げた。
部屋の入り口に目を向けると、「お疲れさま」
と同期の田辺さんが、ひょっこり顔を覗かせて
いる。ドアを閉める彼女の背中越しに、お疲れ
さま、と僕は声をかけた。無造作に置いてある
パイプ椅子の一番窓側に腰掛けると、彼女は
トートバックからお弁当を取り出した。そして
「それ、なんの本?」と僕に視線を投げかけた。
僕は、少し困ったような顔をして見せたが、
彼女は小首を傾げて「なぁに?」と茶目っ気の
ある目を向けてくる。
仕方なく表紙を閉じて本を立てかけて見せる
と、お弁当のフタを開きかけた田辺さんの手が
止まった。
「花図鑑?なんでまた突然」
『僕』と『花図鑑』に接点を見いだせない彼女
が、パクパクとおかずを口に放り込みながら、楽
しそうに追及を始める。まだ、昨日始まったばか
りの淡い恋心を自分の胸だけに留めておきたかっ
た僕の思惑は、いとも簡単に同期の知るところと
なった。
「なるほど。花屋のお姉さんか。そういうとこ
ろにも、出会いってあるんだね」
箸にさした玉子焼きを眺めながら、田辺さんが
微笑む。僕の話は、“仕事帰りに偶然立ち寄った
花屋の女性が、とても綺麗だった“、という、ただ
それだけの事だったけれど……
手の中にある花図鑑を見れば、彼女に対する
好意はもう、隠しようもなかった。
「花屋の店員さんとお客じゃ、どうにもなら
ないよね」
「うーん、そうだねぇ……」
まるで生活指導を受けている生徒のように背筋
を伸ばして、僕は両手でコーヒーの缶を握る。
田辺さんは、ごくりと玉子を飲み込んで、箸を
持ったまま両肘をテーブルにつくと、「でもさ」
と言葉を続けた。
出してきた図鑑は、借り手が少ないようで、
背表紙にピタリと張り付いたラベルが新しか
った。
本を開いて間もなく、休憩室の扉が開いて僕
は顔を上げた。
部屋の入り口に目を向けると、「お疲れさま」
と同期の田辺さんが、ひょっこり顔を覗かせて
いる。ドアを閉める彼女の背中越しに、お疲れ
さま、と僕は声をかけた。無造作に置いてある
パイプ椅子の一番窓側に腰掛けると、彼女は
トートバックからお弁当を取り出した。そして
「それ、なんの本?」と僕に視線を投げかけた。
僕は、少し困ったような顔をして見せたが、
彼女は小首を傾げて「なぁに?」と茶目っ気の
ある目を向けてくる。
仕方なく表紙を閉じて本を立てかけて見せる
と、お弁当のフタを開きかけた田辺さんの手が
止まった。
「花図鑑?なんでまた突然」
『僕』と『花図鑑』に接点を見いだせない彼女
が、パクパクとおかずを口に放り込みながら、楽
しそうに追及を始める。まだ、昨日始まったばか
りの淡い恋心を自分の胸だけに留めておきたかっ
た僕の思惑は、いとも簡単に同期の知るところと
なった。
「なるほど。花屋のお姉さんか。そういうとこ
ろにも、出会いってあるんだね」
箸にさした玉子焼きを眺めながら、田辺さんが
微笑む。僕の話は、“仕事帰りに偶然立ち寄った
花屋の女性が、とても綺麗だった“、という、ただ
それだけの事だったけれど……
手の中にある花図鑑を見れば、彼女に対する
好意はもう、隠しようもなかった。
「花屋の店員さんとお客じゃ、どうにもなら
ないよね」
「うーん、そうだねぇ……」
まるで生活指導を受けている生徒のように背筋
を伸ばして、僕は両手でコーヒーの缶を握る。
田辺さんは、ごくりと玉子を飲み込んで、箸を
持ったまま両肘をテーブルにつくと、「でもさ」
と言葉を続けた。