Diary ~あなたに会いたい~
 「似ているのよ、とても。だけど、あなたは
あの人じゃない。だから……」

 「だから?」

 最後の方は、酷く消え入りそうな声だった。
 けれど、その言葉から彼女の胸の内が、うっ
すらと透けて見える。
 彼女は“俺”が嫌いなわけではないのだ。
 けれど、俺は忘れられない“誰か”に、似て
いる。だから、会いたくなかった。
 つまりは……そういうことだ。

 「悪いけど、そういう理由なら引けないな。
その彼が嫌いなら、似ているのは酷かもしれな
いけど、そうじゃないなら……俺はその人の
代わりでも構わない。この先、キミの気持ちが
どう変わるかもわからないし。まずはお試しに
どう?」

 冷えた手をポケットに突っ込むと、俺は
悪戯っ子のような目を彼女に向けた。
 彼女にとって俺が誰かの代わりだとしても、
まったく構わなかった。
 俺だって、自分気持ちが決まっているわけ
じゃない。

 今はただ、ゆづるに会いたい。
 わかるのは、それだけだった。

 「お試し、って……」

 予想とは違う答えだったのだろう。
 彼女はどんな顔をすればいいかわからない、
といった様子で目を丸くしている。

 「それにコレ。あんまり上手だから、額に
入れて飾ろうかと思っててさ」

 ジャケットのポケットに小さく畳んで忍ばせ
ていた、一枚の紙を広げる。いつかの夜の、
俺の寝顔が十字型のシワに顔を凹ませて、そこ
にいた。

 「でも、どうせなら寝顔じゃない方が嬉しい
んだ。だから、できればもう一度、俺を描いて
欲しいんだけど、それもダメ?」

 耳を澄ませば、寝息が聞こえてきそうなほど
鮮明なその画を見た彼女の瞳が、僅かに揺れる。
 その画の向こうに、違う誰かを見ていることは
察しがついた。俺はもう、何も言わずに彼女の
返事を待った。
 目の前に差し出された紙を、彼女がゆっくり
と受け取る。冷えた風が長い髪とその紙を同時
に揺らして、このままでは二人とも風邪を引い
てしまいそうだ、と、そう思った時、背後から
コツコツと、階段を下りて来る足音がした。
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