Diary ~あなたに会いたい~
----さて、どんな事を書こう?



 田辺さんから借りた便箋をエプロンの大き
なポケットにしまいこんだ僕は、パソコンの
前で時折、手を止めながら思い悩んでいた。

 45分という短めの休憩時間を終え、フロ
アーに戻ると、新規の書籍が山のように積み
上げられていて、僕は思わず息を呑む。

 「これ、頼むよ。全部ね」

 黒縁のメガネをかけ、見事なまでに髪を
7:3分けにしている館長の近藤さんが、
威圧感を漂わせながらぼそりと言った。

 「……はい」

 隣に立つ近藤さんに返事をすると、メガネ
の奥の瞳が、いっそう鋭い光を放った。

 彼は誰に対してもそうなのだ。

 そうわかっていても、近藤さんから頼まれる
仕事は余計なプレッシャーがかかってしまう。

 なので、いつもならそれほど長い時間を要さ
ない入力作業が、今日に限って中々はかどらな
い事に、僕は焦りを感じていた。



----カタカタカタ----



 タイトル、著者、分類、受入番号を入力して、
じっと画面を見つめる。入力ミスがないか確認
して「次へ」のボタンを押した、その時だった。

 「ねぇ、手伝おっか?」

 背後で声がして振り返ると、腰をかがめた田辺
さんが心配そうな顔をして覗き込んでいた。

 「もう定時過ぎてるよ。今日はカウンター混ん
だからね」

 そう言われて、中央の時計を見る。いつの間に
か定時を過ぎた時計の長い針は、すでに5時45
分を少し回っていた。

 貸出・返却で混み合うカウンターのヘルプに
入りながら、作業をするのは当たり前のことで、
仕事が遅くなった言い訳にはならない。
 だから、これから帰宅しようという田辺さんに
甘えるわけにもいかなかった。

 「ありがとう。でも、あと少しで終わりそう
だから」

 僕は小さく首を振る。すると、田辺さんは、
そう?と、肩を竦めて見せた。

 「あと少しで終わるようにも見えないけど。
遠野君、頑張り屋さんだもんね。じゃあ、お先
に」

 「うん。お疲れさま」

 ひらりと、手をあげて身を翻した彼女に、僕も
軽く手を振って見送った。
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