Diary ~あなたに会いたい~
驚いたように大きく目を見開いたその人が、
後ろ手にドアを閉めて僕の前に立つ。
僕はもう一歩後ろに下がって、僕よりも幾分
背の高い父親の顔を見上げた。
「あの、弓月とはどういった……」
ドアの向こうを気にするように、小声で
そう言うと、彼は僕の答えを待った。
「……僕は、そのっ……」
-----どういった関係か。
と、唐突に弓月の父親に聞かれて、身体中
の血液が顔に集まってしまう。
考えてみれば、心の準備も何もないまま、
僕は“恋人”の父親に会ってしまったのだ。
それでも、ここで第一印象を悪くするわけ
にはいかなかった。
僕はキッと唇を引き締めると、小さく息を
吸い込んで口を開いた。
「弓月さんと、真剣にお付き合いをさせ
ていただいています。遠野和臣と申します」
深々と頭を下げ、ゆっくり頭を上げる。
“真剣に”とあえて強調したのは、弓月と
の結婚を考えているという僕の意思が、相手
に伝わって欲しいと思ったからだ。
「……そうですか。あなたが」
僕の答えを予想していたのだろうか?
ふっ、と肩の力を抜くように緩く息を吐く
と、少し困ったように眉を寄せてこめかみを
擦った。
「申し訳ありませんが、あの子はもう眠って
しまったようで………また、日を改めていただ
けると」
ちら、と一瞬、視線を泳がせて言った父親の
言葉には“嘘”が透けて見える。
けれど、眠ってしまったと言われれば、そう
ですか、と答える以外選択肢はない。
僕は僅かに目を伏せてそうですか、と口に
すると顔を上げて微笑を向けた。
「じゃあ、また明日来ます。突然、押しかけ
てすみませんでした」
もう一度、深く頭を下げてくるりと背を向け
る。すると、出口に向かおうと歩き出した僕の
背を、「あの」と躊躇いがちな声が止めた。
「はい」
振り返ってはにかむと、父親はまた困ったよう
に俯く。つい、呼び止めてしまったのだろう。
何を言っていいかわからない、といった様子
で開きかけた唇を舐めると徐に訊いた。
「あの子は、幸せなんでしょうか?」
「…………」
「あ、いえ……失礼」
思ってもいなかった問いかけに、答えに窮して
いる僕を見て、慌てて顔の前で手を振る。
後ろ手にドアを閉めて僕の前に立つ。
僕はもう一歩後ろに下がって、僕よりも幾分
背の高い父親の顔を見上げた。
「あの、弓月とはどういった……」
ドアの向こうを気にするように、小声で
そう言うと、彼は僕の答えを待った。
「……僕は、そのっ……」
-----どういった関係か。
と、唐突に弓月の父親に聞かれて、身体中
の血液が顔に集まってしまう。
考えてみれば、心の準備も何もないまま、
僕は“恋人”の父親に会ってしまったのだ。
それでも、ここで第一印象を悪くするわけ
にはいかなかった。
僕はキッと唇を引き締めると、小さく息を
吸い込んで口を開いた。
「弓月さんと、真剣にお付き合いをさせ
ていただいています。遠野和臣と申します」
深々と頭を下げ、ゆっくり頭を上げる。
“真剣に”とあえて強調したのは、弓月と
の結婚を考えているという僕の意思が、相手
に伝わって欲しいと思ったからだ。
「……そうですか。あなたが」
僕の答えを予想していたのだろうか?
ふっ、と肩の力を抜くように緩く息を吐く
と、少し困ったように眉を寄せてこめかみを
擦った。
「申し訳ありませんが、あの子はもう眠って
しまったようで………また、日を改めていただ
けると」
ちら、と一瞬、視線を泳がせて言った父親の
言葉には“嘘”が透けて見える。
けれど、眠ってしまったと言われれば、そう
ですか、と答える以外選択肢はない。
僕は僅かに目を伏せてそうですか、と口に
すると顔を上げて微笑を向けた。
「じゃあ、また明日来ます。突然、押しかけ
てすみませんでした」
もう一度、深く頭を下げてくるりと背を向け
る。すると、出口に向かおうと歩き出した僕の
背を、「あの」と躊躇いがちな声が止めた。
「はい」
振り返ってはにかむと、父親はまた困ったよう
に俯く。つい、呼び止めてしまったのだろう。
何を言っていいかわからない、といった様子
で開きかけた唇を舐めると徐に訊いた。
「あの子は、幸せなんでしょうか?」
「…………」
「あ、いえ……失礼」
思ってもいなかった問いかけに、答えに窮して
いる僕を見て、慌てて顔の前で手を振る。