Diary ~あなたに会いたい~
「弓月が見た黒い影が何なのか、僕も調べ
てみるよ。でも、ひとりでいる時にまた怖い
思いをするといけないから、これ………」
僕はゴソゴソと鞄の奥を探ると、古びた
白いお守りを取り出した。
“身代御守り”と金箔で書かれたそれは、中学
の頃に母と行った神社で買ったものだ。
子供騙しもいいところだが、効力云々よりも
弓月を“守りたい”という僕の想いを、ただ、
彼女の側に置いておきたかった。
こんなもの、と、弓月は笑うだろうか?
「ありがとう」
弓月は僕の手の中にあるお守りをそっと受け
取ると、目を細めた。
大切そうに握って、胸にあてる。
そうして、守ってもらうね、と白い歯を覗か
せて笑ってくれた。
「……ん」
僕は何だか恥ずかしくなって、ガリガリと
頭を掻いた。つい、と弓月から逸らした視線
を壁の時計に向ければ、時刻はすでに7時を
回っている。
花屋の閉店時間は6時半だ。
「弓月。店、閉めなきゃ」
「あ、ほんとだ。7時過ぎてるね」
ふふ、と笑んで立ち上がろうとした弓月を
手で制し、入り口へ向かう。
「いいよ。僕がやる」
店の外に出てドアに掛けられた“open”の札を
“close”に替えると、店頭の照明を消した。
「そう言えばさ。お父さんから僕のこと何か
聞いてる?昨日、ここで会ったんだけど」
ドアを閉め、弓月に背を向けたまま何気な
くそう口にした僕は、振り返った瞬間に眉を
顰めた。
ついさっきまで笑みを浮かべていたはずの
弓月はそこになく、凍り付いたように僕を
凝視している。まるで、昨夜と同じものを
見ているかのような眼差しだ。
手に握りしめたコーヒーはカタカタと震え、
明らかに“何かに”怯えていた。
「……どうしたの?弓月」
僕はさらに眉間のシワを深め、弓月に歩み
寄った。
彼女の前に屈んで髪に触れる。
それでも彼女は顔色を蒼白にしたまま、
唇を震わせていた。僕はもう一度名を呼んで、
彼女の頬に手をあてた。
「弓月。もしかして、僕と付き合っている
こと、お父さんに内緒だった?」
彼女の様子から僕が推測できる理由はそれ
くらいで、他に思い当たらなかった。
てみるよ。でも、ひとりでいる時にまた怖い
思いをするといけないから、これ………」
僕はゴソゴソと鞄の奥を探ると、古びた
白いお守りを取り出した。
“身代御守り”と金箔で書かれたそれは、中学
の頃に母と行った神社で買ったものだ。
子供騙しもいいところだが、効力云々よりも
弓月を“守りたい”という僕の想いを、ただ、
彼女の側に置いておきたかった。
こんなもの、と、弓月は笑うだろうか?
「ありがとう」
弓月は僕の手の中にあるお守りをそっと受け
取ると、目を細めた。
大切そうに握って、胸にあてる。
そうして、守ってもらうね、と白い歯を覗か
せて笑ってくれた。
「……ん」
僕は何だか恥ずかしくなって、ガリガリと
頭を掻いた。つい、と弓月から逸らした視線
を壁の時計に向ければ、時刻はすでに7時を
回っている。
花屋の閉店時間は6時半だ。
「弓月。店、閉めなきゃ」
「あ、ほんとだ。7時過ぎてるね」
ふふ、と笑んで立ち上がろうとした弓月を
手で制し、入り口へ向かう。
「いいよ。僕がやる」
店の外に出てドアに掛けられた“open”の札を
“close”に替えると、店頭の照明を消した。
「そう言えばさ。お父さんから僕のこと何か
聞いてる?昨日、ここで会ったんだけど」
ドアを閉め、弓月に背を向けたまま何気な
くそう口にした僕は、振り返った瞬間に眉を
顰めた。
ついさっきまで笑みを浮かべていたはずの
弓月はそこになく、凍り付いたように僕を
凝視している。まるで、昨夜と同じものを
見ているかのような眼差しだ。
手に握りしめたコーヒーはカタカタと震え、
明らかに“何かに”怯えていた。
「……どうしたの?弓月」
僕はさらに眉間のシワを深め、弓月に歩み
寄った。
彼女の前に屈んで髪に触れる。
それでも彼女は顔色を蒼白にしたまま、
唇を震わせていた。僕はもう一度名を呼んで、
彼女の頬に手をあてた。
「弓月。もしかして、僕と付き合っている
こと、お父さんに内緒だった?」
彼女の様子から僕が推測できる理由はそれ
くらいで、他に思い当たらなかった。