Diary ~あなたに会いたい~
翌日も。またその翌日も。
弓月の具合は良くならなかった。
仕事を終え、彼女の店に足を運ぶ日が
続く。僕は日課のように図書館の入り口で
コーヒーを買い、ポケットを膨らませて
花屋のドアのベルを同じ時間に鳴らす
ようになっていた。
-----ゴトン!ガッ、ゴトン!
重い衝撃音をさせながら落ちてきた熱い
缶を手に取って、腰を伸ばす。
すると、背後から聞き慣れた明るい声が
聞こえた。
「お疲れさま。今日もデート?」
「うん。あ、良かったら……何がいい?」
振り返って田辺さんに聞く。
慌ててポケットにコーヒーを押し込んで小銭
を自販機に投入すると、彼女は「ほんと?じゃ
あ……コレ」と、ホットレモンを指差した。
「結構長いね。もう1週間くらい?」
並んで歩き始めた田辺さんが、ペットボトル
の蓋を開けながら僕を向く。
短く切りそろえられた髪が、冷えた風を受けて
小さく揺れた。
「もう、1週間以上……かな」
「行ってるんでしょう?病院」
「……うん。まあ」
彼女の問いかけに鈍い返事をしながら、僕は
身重の彼女に合わせて意識的に歩幅を縮めた。
ぺたんこの靴を履いて、なだらかに膨らんだ
お腹を庇うように歩く横顔は、すっかり母親の
それだ。
「なら大丈夫よ。あんまり心配すると彼女も
不安になっちゃうだろうし。ほら、そうやって
暗い顔しないの」
僕の顔を覗き込んで田辺さんが腕を突く。
はは、と力なく苦笑いをしながら、僕は昨夜
の弓月の様子を思い出した。
「病院行こうよ。僕も付き添うから」
良くなるどころか、ますます顔色を悪く
していく弓月に、僕は努めて優しく言った。
ただ、軽い風邪が長引いているだけなのだと
しても、元気のない弓月を見ているのは辛い。
怠そうに丸椅子に身体を預ける彼女の顔に
生気はなく、もしかしたら……と不吉な予感
ばかりを増幅させてしまう。
弓月の具合は良くならなかった。
仕事を終え、彼女の店に足を運ぶ日が
続く。僕は日課のように図書館の入り口で
コーヒーを買い、ポケットを膨らませて
花屋のドアのベルを同じ時間に鳴らす
ようになっていた。
-----ゴトン!ガッ、ゴトン!
重い衝撃音をさせながら落ちてきた熱い
缶を手に取って、腰を伸ばす。
すると、背後から聞き慣れた明るい声が
聞こえた。
「お疲れさま。今日もデート?」
「うん。あ、良かったら……何がいい?」
振り返って田辺さんに聞く。
慌ててポケットにコーヒーを押し込んで小銭
を自販機に投入すると、彼女は「ほんと?じゃ
あ……コレ」と、ホットレモンを指差した。
「結構長いね。もう1週間くらい?」
並んで歩き始めた田辺さんが、ペットボトル
の蓋を開けながら僕を向く。
短く切りそろえられた髪が、冷えた風を受けて
小さく揺れた。
「もう、1週間以上……かな」
「行ってるんでしょう?病院」
「……うん。まあ」
彼女の問いかけに鈍い返事をしながら、僕は
身重の彼女に合わせて意識的に歩幅を縮めた。
ぺたんこの靴を履いて、なだらかに膨らんだ
お腹を庇うように歩く横顔は、すっかり母親の
それだ。
「なら大丈夫よ。あんまり心配すると彼女も
不安になっちゃうだろうし。ほら、そうやって
暗い顔しないの」
僕の顔を覗き込んで田辺さんが腕を突く。
はは、と力なく苦笑いをしながら、僕は昨夜
の弓月の様子を思い出した。
「病院行こうよ。僕も付き添うから」
良くなるどころか、ますます顔色を悪く
していく弓月に、僕は努めて優しく言った。
ただ、軽い風邪が長引いているだけなのだと
しても、元気のない弓月を見ているのは辛い。
怠そうに丸椅子に身体を預ける彼女の顔に
生気はなく、もしかしたら……と不吉な予感
ばかりを増幅させてしまう。