Diary ~あなたに会いたい~
------或いは。



 予感があったのかも、知れなかった。

 冷えたドアノブを回し、重い扉を開ける。
 ふわ、と店内から温かな風と音色が流れカウン
ターに目をやると、いつもなら空いているはず
のその席に、彼女の背中があった。

 ぴたりと足が止まる。
 鼓動が大きく鳴って、身体が熱くなった。

 温かな店の空気を割って、冷たい外気がすぅ、
と流れ込んでゆく。
 すると細い肩を竦めて、彼女がこちらを向いた。
 そうして、俺を見つけて笑う。

 「入ったら?邪魔になるから」

 その言葉にはっとして振り向くと、いま階段を
下りてきたらしいカップルが背後で立ち止まって
いた。

 「失礼」

 俺は店に入ると、ネクタイを緩めながら彼女の
隣に座った。

 「いらっしゃい。いつものでいい?」

 カウンターの奥からマスターがおしぼりを差し
出す。

 「ああ。いつもので」

 熱いそれを受け取って頷くと、マスターは
ロンググラスを手に、手際よくハイボールを
作り始めた。
 カラン、カランと大きめの氷がグラスに落ちる
音が響く。俺は片手で頬杖をついて、ゆるりと
彼女を向いた。

 「平気だったの?あれから。家まで送らな
かったけど……」

 「平気よ。すぐそこだって言ったでしょ」

 ふふ、とゆづるが小首を傾げて見せる。

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