Diary ~あなたに会いたい~
「昨日は、ちょっと仕事が立て込んでね。
会社を出たのが遅かったんだ。だから、疲れ
て店に来なかった訳じゃないよ。もし、君が
待ってると知っていれば、夜中でも来たんだ
けど、残念。やっぱり、無理してでも来る
べきだったな」
にっ、と笑みを深めて彼女の様子を窺う。
もちろん、彼女が“俺を待っていた”などと
素直に認める筈はない。けれど、頬の色を
さらに赤く染め、拗ねたように唇を噛んだ
その表情は愛おしく、すべてを肯定していた。
俺は心の中が温まってゆくのを感じながら、
彼女の反論を待った。
「別に、私はマスターのお酒が飲みたくて
来ただけで、あなたを待ってたワケじゃないわ」
ほぼ予想通りのセリフを言って、残りの
カクテルを一気に飲み干す。溶けて小さく
なった氷が、空っぽのグラスの中をくるくる
と回った。
その時、マスターがハイボールを手に俺の
前に立った。丸い紙のコースターを手前に
敷いて、ロンググラスを置く。と、ふたりの
会話を聞いていたのだろう。意味ありげな
笑みを浮かべながら、ちら、と俺の目を見て
言った。
「嬉しいね。僕の作る酒が飲みたいなんて。
でも、あまり夜更かしが続くのは感心しない
よ。昨日は閉店まで、ここで飲んでいたからね」
「……閉店まで?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、どんな顔をして
いいかわからなかった。
本当に………そんな時間まで、彼女が俺を
待っていてくれたのだとすれば、嬉しい。
信じられないほどに。
けれど彼女の身体を思えば、手放しには喜べ
なかった。
矛盾しているようだが、俺が「毎晩」彼女と
過ごしたいと言った時間の中には“睡眠”も含ま
れている。だから、一睡もしないまま、朝を
迎えるつもりはなかった。
温もりや朝日をゆづると分け合いたい。
そう思っているだけだ。
「ちょっとマスター。余計なこと言わない
でくれる?昼間ちゃんと寝てるんだから、私は
大丈夫なの」
わかりやすい“しかめっ面”をして、
「おかわり」と言わんばかりに空っぽのグラス
を差し出す。俺はその手をグラスごと掴んで
留めると、すっと席を立った。
会社を出たのが遅かったんだ。だから、疲れ
て店に来なかった訳じゃないよ。もし、君が
待ってると知っていれば、夜中でも来たんだ
けど、残念。やっぱり、無理してでも来る
べきだったな」
にっ、と笑みを深めて彼女の様子を窺う。
もちろん、彼女が“俺を待っていた”などと
素直に認める筈はない。けれど、頬の色を
さらに赤く染め、拗ねたように唇を噛んだ
その表情は愛おしく、すべてを肯定していた。
俺は心の中が温まってゆくのを感じながら、
彼女の反論を待った。
「別に、私はマスターのお酒が飲みたくて
来ただけで、あなたを待ってたワケじゃないわ」
ほぼ予想通りのセリフを言って、残りの
カクテルを一気に飲み干す。溶けて小さく
なった氷が、空っぽのグラスの中をくるくる
と回った。
その時、マスターがハイボールを手に俺の
前に立った。丸い紙のコースターを手前に
敷いて、ロンググラスを置く。と、ふたりの
会話を聞いていたのだろう。意味ありげな
笑みを浮かべながら、ちら、と俺の目を見て
言った。
「嬉しいね。僕の作る酒が飲みたいなんて。
でも、あまり夜更かしが続くのは感心しない
よ。昨日は閉店まで、ここで飲んでいたからね」
「……閉店まで?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、どんな顔をして
いいかわからなかった。
本当に………そんな時間まで、彼女が俺を
待っていてくれたのだとすれば、嬉しい。
信じられないほどに。
けれど彼女の身体を思えば、手放しには喜べ
なかった。
矛盾しているようだが、俺が「毎晩」彼女と
過ごしたいと言った時間の中には“睡眠”も含ま
れている。だから、一睡もしないまま、朝を
迎えるつもりはなかった。
温もりや朝日をゆづると分け合いたい。
そう思っているだけだ。
「ちょっとマスター。余計なこと言わない
でくれる?昼間ちゃんと寝てるんだから、私は
大丈夫なの」
わかりやすい“しかめっ面”をして、
「おかわり」と言わんばかりに空っぽのグラス
を差し出す。俺はその手をグラスごと掴んで
留めると、すっと席を立った。