塁のふしぎな日曜日
「じゃ、俺、もう行くね」

そう声をかけて立ち上がると、虎が俺の前に立ち塞がった。

えっ、何?

再び湧き上がる恐怖心。

まさか、元気になったから、今から襲うの!?

俺は、怖くて、逃げるに逃げられなくて、その場で固まった。

すると、虎は、クゥと鳴いたかと思うと、俺の前に伏せた。

えっ、何!?

俺は、わけが分からなくて、呆然と虎を見下ろすと、虎はまたクゥと鳴きながら、顎を背中へとしゃくった。

これ、もしかして……

「背中に乗れって言ってる?」

俺がそう尋ねると、虎は、まるで言葉が分かるかのようにうなずいて、俺を見つめた。

俺は、恐る恐る虎の背に跨ると、虎はスッと俺を乗せたまま立ち上がる。

そして、そのまま歩き始めた。

どこへ行くんだろう。

向かってる先は、俺が行こうとしていた地図の方向と同じだと思うんだけど、なんで虎が俺を連れて行こうとしてるのか分からない。

俺は、ゆらゆらと揺れる虎の背から落ちないように、必死でバランスをとりながら、その背中にしがみついている。

すると、林の木立ちを抜け、目の前に崖が立ち塞がった。

行き止まり?

そう思ったのも束の間、虎はそのまま崖に近寄っていく。

よく見ると、その崖の一画にぽっこり穴が空いている。

これは、洞窟?

虎はそのままその穴に入っていく。

中は薄暗くてひんやりとしている。

虎にはこんな暗い中でも周りが見えてるのかな?

だんだん真っ暗になる中で、リュックにつけてある蓄光塗料でできているキーホルダーだけがほのかな光を放っている。

しばらく行くと、天井に穴が空いているようで、上から一筋の光が差し込んでいる。

えっ、これ、湖!?

その光の向こうには、静かに水を湛えた地底湖が広がっていた。

すごい。

こんなに綺麗な景色見たことない。

波が全く立っていない水面は、まるで鏡のように美しい。

虎は、そのまままっすぐ湖へと進む。

どうしたいんだろう?

俺が疑問に思っていると、虎はそのまま水の中へと入っていく。

「えっ、ちょっ、虎さん!?
 わっ、冷たっ!」

気付けば、俺の膝から下はぐっしょりと冷たい水に濡れてしまった。

虎はそれでも止まることなく、水の中を、俺を乗せたまま泳いでいく。

どういうこと?

虎って、猫と一緒で、水、嫌いそうなんだけど……

今さらどうすることもできなくて、俺はただ虎に捕まってることしかできない。

すると、薄明かりで目の前に岩が小島のようになっているのが見えた。

ここへ連れてきたかったのかな?

そう思っていると、虎はそこへ上がり、その場に伏せた。

これ、降りろって言ってる?

俺は、疑問に思いながらも、そのまま虎から降りた。
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