天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
つわりの症状も相変わらずで、仕事をしていれば多少気がまぎれるものの、いろいろな場所から食べ物の匂いが漂ってくる昼休みや、帰宅してからがつらい。
柿田さんと桃瀬さんにはまだ妊娠のことは告げていない。けれど、ずっと体調が悪く、チョコレートと柑橘系の飲み物しか受け付けない私をふたりとも心配してくれているので、会社に行ったらふたりだけには伝えておこうと決めた。
「おはようございます」
午後になり、マスクで匂いを遮断しつつ、総務部に出勤する。すると、私の姿を見つけなるなり、柿田さんと桃瀬さんが揃って駆け寄ってきた。
「絢美ちゃん、ごめん!」
「ごめんなさい!」
突然目の前で頭を下げたふたりに、面喰って固まる。
謝られるようなことをされた覚えはないし、いったいどうしたのだろう。
「あの……ふたりとも、どうしたんですか?」
「それより、絢美ちゃんの具合、どう? 精神的なものなんでしょう? 私たちが余計なことしたせいで、会社を休んで病院に行くまで悩ませてしまったのよね……」
柿田さんがワンレンボブの髪にくしゃっと手を差し入れ、悔やんだように言う。