天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
キッチンに立つ絢美は、白地に赤い花柄の描かれたエプロンを身に着け、オーブンの中を真剣に覗いている。
この香りは、オーブンからだったのか。なにができるのか期待しながら、キッチンに歩み寄る。
「ずっと立っていて平気なのか?」
「うん。チョコの匂いはなぜか平気だし、料理に集中してるとむしろ気が紛れるの」
ニコッと微笑まれると、途端に胸がきゅっと締め付けられ、愛しさがあふれる。
そういえば、電話やメッセージのやり取りこそ頻繁にあるものの、こうして顔を見るのは去年のクリスマスイブ以来だ。
絢美ってこんなにかわいかったか?
いや、かわいかった。絢美は、昔からずっとかわいい。俺が素直に認めていなかっただけで。
「焦げないといいんだけど」
馬鹿みたいに浮かれた俺の思考を知る由もない絢美は、オーブンの中で焼いている菓子にアルミホイルをかぶせるか否か真剣に悩み、難しい顔をしている。
俺はきょろきょろと部屋を見回し、先ほど出ていった彼女の母親が戻ってくる気配もないことを確認すると、オーブンに気を取られている彼女を後ろからそっと抱きしめた。