天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
「わっ、びっくりした」
「ごめん。会うの久しぶりすぎるから我慢できなくて」
「うん……。そうだよね。ありがとう、会いに来てくれて」
絢美は、肩に回された俺の手に、自分の手をそっと重ねる。
チョコレートの甘い香りに包まれながら彼女にこうして触れていると、枯渇した泉に湧き水が満ちていくように、幸福で胸が満たされていく。
「……聡悟くんは、元気にしてる?」
ふと、絢美が遠慮がちに俺を振り返って聞いた。俺は目を伏せ、「わからない」と呟く。
「仕事では普通にしてるけど、少し痩せたようにも見える。話をしようと思っても、向こうは俺を避けているみたいだし……このまま分かり合えないのかもしれない」
十日ほど前に聡悟と望月さんとの逢瀬を目撃して以来、俺は聡悟とまともに話せていなかった。
今の聡悟はあれほど強気な態度で俺と絢美の中を引っ掻き回していたのが嘘のように、粛々と仕事だけをこなしている。
「そっか……。寂しいね、なんだか」
絢美がぽつりと呟くと、オーブンがピピピッと音を立てる。
絢美は「ちょっとごめんね」と俺の腕をほどき、ミトンを手にはめてオーブンを開いた。