天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
途端に、部屋中に焼けたチョコレートの甘く香ばしい香りが広がり、思わずうっとりと目を閉じる。
と、その時、ジーンズのポケットでスマホが鳴りだす。取り出してみると、貴船総合病院からだった。
今日の俺はオンコールではないが、そうでなくても俺にしか対応できない症状の患者がいれば、こうして連絡が入る。つまり、一刻を争う患者が……?
俺は瞬時にプライベートから頭を切り替え、電話に応答する。
「はい、貴船です」
《先生! お兄さんの聡悟さんが……!》
切迫した声で電話をかけてきたのは心臓血管外科の看護師だった。聡悟が病院で仕事中に背中の痛みを訴えたまま倒れ、意識不明。現在早急に検査を行っている最中だという。
俺は電話を切ると、すぐに支度を整え絢美に告げる。
「聡悟が倒れた。検査の結果待ちだが、急性大動脈解離かもしれない」
「えっ……?」
「とにかく行ってくる。状況次第でまた連絡する」
不安そうに眉を曇らせる絢美の頭にポンと手を置き、俺は彼女の家を後にする。
走って大通りに出てタクシーを拾い、自分自身の焦りを落ちつかせながら貴船総合病院を目指す。