天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
もしも大動脈解離によるショック状態なら、聡悟は心臓のポンプが機能しなくなっている、きわめて危険な容体。処置が遅くなればなるほど、致死率は上がっていく。
「死なせるかよ……」
俺はぎり、と奥歯を噛み、病院に到着するまでのもどかしい時間をやり過ごした。
病院に着くと、すでにCT、エコー、レントゲンの結果が出揃っていた。
聡悟は予想通り大動脈解離を起こしており、中でも心臓に近い上行大動脈に解離が生じているA型。このタイプは四十八時間以内に半数の患者が亡くなるため、すぐに緊急手術となった。
身内のオペを執刀するのは初めてだが、やることは変わらない。誰であろうと、全力で助ける。
たとえ、自分そっくりの双子の兄であっても……。
「メス」
俺は全身麻酔で眠る聡悟の胸にメスを入れ、心臓を露出した。
人工心肺装置で全身の血流と酸素供給を確保しつつ、体温を低下させて脳以外への血流を一時的に停止させる。
体温を下げるのは、血液が送られない内臓や筋肉へのダメージを最小限にするためだ。