天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
「クーパー」
「はい」
看護師から器具を受け取り、解離した部分の血管を切除する。
その部分に化学繊維で織られたチューブ状の人工血管を置き、縫いつける。
常に心機能や脳への合併症が起こらないかを注意深くモニターしながら、丁寧に、そして迅速に鑷子で掴んだ針を動かす。
――そして、五時間弱が経過した頃。
張り詰めた緊張感の中ですべての処置を終えた俺は、短く息をついて告げた。
「終了です。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
いつもなら終了後はすぐにオペ室を去る俺だが、その時ばかりは無意識に聡悟の横たわる台に近づき、麻酔で眠り続けているその顔を見つめた。
「心配かけるなよ、馬鹿……」
自然と口をついて出た声は、情けなく震えていた。
オペに集中している時は淡々としていられたのに、終わってみれば自分でも驚くほど安堵していた。
いくら聡悟が俺を憎んでいたって、俺にとっては大切な兄だ。時々腹の立つことはあるが、生きていてくれないと困る。絢美だって、きっとそう思っている。
聡悟を見つめていると段々と鼻の奥がツンとしてきて、俺は慌てて目を逸らすと、足早にオペ室を後にした。